ストロング系チューハイはなぜ売れなくなったのか――「高アル離れ」の正体

一時期、コンビニやスーパーの酒売り場には「ストロング」の文字があふれていた。

アルコール度数9%前後。

安く、手軽で、飲みやすい。そして少ない本数でも酔える。

缶チューハイ市場を象徴する存在だったストロング系だが、最近は以前ほどの勢いを感じなくなった。

これは単なる印象ではない。

販売データを見ると、ストロング系のシェアは実際に大きく低下している。

しかし、缶チューハイそのものが売れなくなったわけではない。

では、いったい何が起きたのだろうか。

まず「RTD」とは何か

缶チューハイ市場を調べると、「RTD」という言葉が頻繁に登場する。

RTDとは「Ready To Drink」の略。

缶チューハイや缶ハイボール、缶カクテルなど、開けてそのまま飲めるアルコール飲料を指す。

ビールも当然そのまま飲めるが、酒類市場の統計では通常、ビール類とRTDは別カテゴリーとして扱われる。

そして、このRTD市場自体は決して衰退していない。

富士経済の調査では、国内RTD市場は2025年に前年比6.7%増の5,413億円が見込まれている。

その8割以上を占めるのがチューハイだ。

つまり、

「缶チューハイが売れなくなった」のではない。

大きな市場の内部で、選ばれる商品が変わっているのである。

ストロング系のシェアはほぼ半分になった

変化はかなり大きい。

全国のスーパー6,000店以上を対象としたPOSデータでは、2019年にはアルコール度数8%以上の商品がRTD販売数量の41%を占めていた。

ところが2024年1~7月には、

20%

まで低下した。

5年ほどで、ほぼ半分である。

逆に存在感を増したのが、低~中アルコールの商品だ。

「最近、ストロング系をあまり見なくなった」という感覚は、実際の販売データにも表れている。

売れなくなったのは「チューハイ」ではなく「ストロング」

ここが重要だ。

ストロング系が縮小する一方で、缶チューハイ市場では別の商品が伸びている。

代表的なのが「無糖」だ。

キリンの「氷結 無糖」は2025年に同社チューハイで売上No.1となり、2026年2月末には累計販売数量が350ml換算で18億本を突破した。

現在では同じレモン系でも、低アルコールから9%まで複数の度数が用意されている。

市場全体を見ても、無糖や4~6%程度の中アルコール商品の存在感が大きくなっている。

つまり消費者は、

チューハイを飲まなくなったのではない。

ストロング以外のチューハイを選ぶようになった。

この違いは大きい。

かつては「高い度数ほど得」だった

ストロング系が爆発的に広がった理由の一つは、その分かりやすい商品価値にある。

例えば500mlなら、

5%のチューハイに含まれる純アルコールは約20g。

9%なら約36g。

価格差がそれほど大きくなければ、9%の方が少ない本数で酔える。

つまり、

「酔うためのコストパフォーマンスが高い」

という価値があった。

安く、手軽に、短時間で酔える。

ストロング系は、非常に分かりやすい商品だった。

ところが、その「長所」そのものが以前ほど求められなくなってきた。

「早く酔える」がメリットではなくなった

家で食事をしながら飲む。

動画や映画を見ながら飲む。

飲んだ後にも家事をする。

翌日の仕事に残したくない。

そんな飲み方では、短時間で強く酔う必要はない。

むしろ、

長く飲めること。

食事に合わせやすいこと。

酔いすぎないこと。

の方が重要になる。

ストロング系が提供していた「効率よく酔える」という価値と、消費者が酒に求める価値との間にズレが生まれ始めたのである。

年齢を見ると、さらに事情が見えてくる

年代別の飲酒データを見ると、この変化はさらに興味深い。

厚生労働省の2023年「国民健康・栄養調査」で、生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している男性の割合を見ると、

20代 6.6%
30代 14.1%
40代 18.8%
50代 23.6%
60代 19.3%

となっている。

若い世代ほど、大量に飲酒する人の割合が低い。

一方、ストロング系はもともと中高年男性の支持が大きかったとされる。

ところが、その中高年層でも中アルコール商品への移行が起きている。

メーカーからすると、

若い世代はそもそも高アルコールを強く求めない。

その一方で、

これまで高アルコールを買っていた層まで中アルコールへ移り始めている。

両側から市場が縮んでいることになる。

メーカー自身も高アルコールから距離を取り始めた

市場の変化に合わせて、メーカー側の姿勢も変わった。

アサヒビールやサッポロビールは、アルコール度数8%以上の新商品を積極的に投入しない方向へ転換している。

商品開発の中心は、無糖、中アルコール、低アルコールへ広がった。

これは単なる企業イメージの問題ではない。

売れる場所が変われば、メーカーもそこへ商品を投入する。

消費者の変化とメーカーの商品戦略が互いに作用しながら、ストロング系の売り場は縮小している。

では「高アルコールだから売れない」のか

ここで少し立ち止まって考えてみたい。

ストロング系衰退の理由を、

「アルコール度数が高いから」

だけで説明してしまっていいのだろうか。

酒類全体を見れば、12%前後のワインや15%前後の日本酒は珍しくない。

もちろん、ワインや日本酒と缶チューハイでは購買層も価格帯も飲む場面も違う。

そのため、

「ワインは12%でも売れているのだから、チューハイも12%で問題ない」

という単純な比較はできない。

ただ、一つだけ分かることがある。

12%というアルコール度数そのものが、酒として特殊な数字なのではない。

では、ストロング系特有の問題はどこにあるのだろう。

同じ12%でも「飲み方」が違う

例えば、500ml・12%の缶チューハイ。

含まれる純アルコールは約48gになる。

750ml・12%のワインなら約72gだ。

総量だけを比較すれば、ワイン一本の方が多い。

しかし、通常の飲み方はかなり違う。

ワインならグラスに注ぎ、食事とともに時間をかけて飲むことが多い。

一方の缶チューハイは、

冷たい。

炭酸が入っている。

レモンなどの爽快な風味がある。

そして缶を開ければ、そのまま飲める。

500mlなら比較的短時間で飲み切ることもできる。

つまりストロング系の特徴は、

単にアルコール度数が高いことではない。

高い度数の酒を、一般的な缶チューハイと同じ感覚で飲めることにある。

ストロング系の本当の「強さ」

5%・500mlなら純アルコール約20g。

9%なら約36g。

12%なら約48g。

同じ500mlでも、中身は大きく違う。

にもかかわらず、容器も飲み口もほとんど変わらない。

ここが、ワインや日本酒との大きな違いでもある。

ストロング系の「強さ」は、数字だけではない。

強い酒であることをあまり意識せず、普通のチューハイのように飲めてしまう。

その商品特性こそが、ストロング系を大ヒットさせた理由の一つであり、現在では逆に敬遠される理由の一つにもなっているのかもしれない。

ストロング系は消えるのか

おそらく、完全には消えない。

高アルコールを好む人はいるし、「少ない量でしっかり飲みたい」という需要もなくならない。

ただ、かつてのようにストロング系が缶チューハイ市場の中心を占める時代には戻らない可能性が高い。

現在の酒売り場には、

低アルコール。

4~6%程度の中アルコール。

無糖。

9%前後の高アルコール。

ハイボール。

ノンアルコール。

さまざまな選択肢が並ぶ。

かつての価値は、

「同じ値段なら、強い方が得」

だった。

現在は、

「自分がどのくらい酔いたいのかを選ぶ」

方向へ変わりつつある。

ストロング系のシェアが半減した背景にあるのは、単なる「高アルコール離れ」ではない。

飲む人が変わった。

飲み方が変わった。

酒に求めるものも変わった。

そして皮肉なことに、

「安く、手軽に、早く酔える」というストロング系最大の武器そのものが、以前ほど魅力ではなくなった。

ストロング系が変わったのではない。

酒を飲む側が変わったのである。

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