法務省が、仮釈放中などの性犯罪加害者にGPS機器を持たせる実証実験を、2027年度にも始める方針を固めた。
再犯防止へ向けた新しい取り組みだ。
ただし、今回想定されているのは、海外で使われているような「GPS足輪」ではない。
本人の同意を得た場合に限り、身体に装着するのではなくGPS機器を「所持」してもらう。位置情報から再犯につながる兆候を早期に把握し、保護観察官などの指導へつなげる。
効果が確認されれば、将来的には所持の義務化や対象犯罪の拡大も検討するという。
日本だけを見れば、大きな前進に見える。
しかし海外を見ると、すでに性犯罪者の足首へGPSを固定し、24時間の位置監視、立入禁止区域、被害者への接近禁止、性犯罪歴の公開、就業制限などを組み合わせている国や地域がある。
そして米国には、そのさらに先まで行っている州もある。
ここで比較するのは、単純な懲役刑の長さではない。
罪を償って社会へ戻った後、再犯リスクをどこまで社会が管理するのか。
この点では、日本と海外の一部地域にはかなり大きな差がある。
日本は「GPSを持ってもらう」ところから始める
今回の日本の実証で特徴的なのは、「本人同意」と「所持型」という二つの条件だ。
海外で使われている電子監視装置の多くは、本人が自由に置いて出かけられるGPS端末とは構造が違う。
足首など身体に固定され、外したり壊したりすれば監視側に異常が伝わる。
つまり、
「GPSがどこにあるか」ではなく、「本人がどこにいるか」を追跡する。
そこまで含めて電子監視制度が設計されている。
日本にも再犯防止策がないわけではない。
刑事施設や保護観察所では性犯罪再犯防止プログラムが実施されているほか、2026年12月25日には「こども性暴力防止法」が施行される。
学校や保育所など、子どもに接する一定の仕事について、事業者が対象となる性犯罪歴を確認する、いわゆる日本版DBSも始まる。
それでも、身体装着型GPSによる出所後監視という点では、日本はこれから実証に入る段階だ。
韓国 足首にGPS、破壊まで検知する
日本との比較で分かりやすいのが韓国だ。
韓国では2008年、性犯罪者を対象として電子監視制度を導入した。その後、対象となる重大犯罪も拡大されている。
使われるのは、本人の足首に固定する電子足輪だ。
GPSによって24時間位置を把握するだけでなく、装置本体やストラップを破壊した場合も検知する。
特定時間帯の外出制限、特定地域への立入禁止、被害者への接近禁止などと組み合わせることもできる。
さらに韓国では、一定の性犯罪者について個人情報を登録し、対象によっては氏名や住所などを公開したり、地域の家庭や学校へ通知したりする制度も存在する。
子どもや青少年に関係する施設への就業制限や、一定の高リスク者に対する薬物治療制度まである。
韓国法務省は、性暴力犯罪の同種再犯率について、電子監視導入前の比較群14.1%に対し、電子監視対象者では2.1%だったとの統計も公表している。
ただし、対象年代や集団が同一ではないため、「GPSだけで再犯が7分の1になった」と単純に結論付けることはできない。
それでも、日本がこれから「本人の同意を得てGPSを持ってもらう」実験を始めようとしているのに対し、韓国ではすでに身体装着型を前提とした監視システムが構築されている。
台湾 外せない、壊せない、電波も遮断できない
台湾にも、保護観察中の性犯罪加害者に対する電子監視制度がある。
対象者の犯罪歴、保護観察状況、警察からの情報、治療状況や危険性評価などを踏まえ、必要と判断した場合に電子監視が行われる。
装置を勝手に外す、壊す、隠す、電波を遮断する、充電を怠るといった行為は禁止されている。
GPSによって位置を確認し、禁止区域への侵入などを検知すれば、担当機関が対応する。
台湾高等検察署は、この装置を「電子脚鐐」と表現している。
単なるGPS端末ではない。
身体と位置情報を切り離しにくくすること自体が、制度の一部になっている。
カリフォルニア GPSだけではなく治療とポリグラフ
アメリカの場合は州によって制度が異なる。
そのため「アメリカの性犯罪者は全員こうなる」と一括りにはできない。
ただしカリフォルニア州では、州の監督下にある一定の性犯罪仮釈放者について、GPSによる電子監視が行われている。
装置は足首へ取り付ける。
位置情報によって禁止区域への接近を確認するほか、移動履歴から行動パターンを把握したり、犯罪発生地点とGPSデータを照合して捜査に利用したりすることもできる。
さらに特徴的なのが、GPSだけに頼っていないことだ。
性犯罪者専門の治療、強化された監督、ポリグラフ検査、被害者支援などを組み合わせる「containment model」が採用されている。
GPSは「罰」として単独で存在するのではない。
再犯を防ぐための管理システムの一部として使われている。
英国 被害者の生活圏を守るため、加害者側を制限する
イングランドとウェールズでも、電子タグはすでに刑事司法制度の一部となっている。
位置監視用GPSタグは通常、足首に装着される。
移動履歴を記録し、立入禁止区域、外出禁止、指定場所への出席などの条件を監視できる。
さらに2026年8月、英国政府は重大な性犯罪者や暴力犯罪者について、出所後に行動できる地域そのものを狭くする「restriction zones」を導入すると発表した。
GPSで行動を監視し、被害者側も区域設定について意見を出せる。
違反すれば刑務所へ戻される可能性もある。
この制度で特徴的なのは、発想そのものだ。
被害者が加害者を避けて生活するのではなく、加害者側の移動を制限することで被害者の自由を守る。
日本とはかなり違う考え方が見える。
ドイツ 人権への大きな制約と認めてもGPSを使う
ドイツでは2011年から、高リスクの重大犯罪者に対するGPS電子監視制度が導入された。
性犯罪者も対象となり得る。
装置は足首に固定される。
一定の出所後監督対象者について、裁判所が電子監視装置を常時正常に作動させるよう命じることができる。
さらに、特定地域へ行かない、被害者など特定人物へ近づかない、犯罪につながり得る一定の仕事をしない、住所や職場の変更を届け出る、医師や心理療法士による治療を受ける、といった条件も組み合わせられる。
このGPS監視については、ドイツ連邦憲法裁判所でも争われた。
裁判所は、常時位置監視が基本的人権への重大な介入であることを認めている。
それでも、重大犯罪を再び起こす具体的な危険がある者について、生命や身体、自由、性的自己決定などを守るために必要な条件を満たせば、制度そのものは認められると判断した。
「プライバシーがあるから監視できない」で議論を終わらせていない。
加害者の権利と、将来の被害者を守る権利をどこで両立させるか。
その線引きを法律で決めている。
そしてルイジアナ州 GPSどころではなかった
各国を調べていくと、特に強烈なのが米ルイジアナ州だ。
州司法長官室によれば、州内には1万3000人を超える登録性犯罪者・児童性犯罪者がいる。
登録期間は原則15年。
未成年者を被害者とする一定の性犯罪では25年。
加重性犯罪や複数回の登録対象犯罪などでは終身登録となる。
しかし驚くのは、登録期間ではない。
登録対象となる成人は、原則として自分の氏名、住所、写真、身体的特徴、犯罪内容などを、一定範囲の近隣住民や事業者へ通知しなければならない。
都市・郊外では自宅から0.3マイル、約480メートル以内。
農村部では1マイル、約1.6キロ以内だ。
周辺の学校などにも情報が伝えられる。
さらに、居住地域の新聞などにも写真付きの通知を掲載する制度がある。
そして州法には、裁判所が追加の通知手段として命じることのできる例が、そのまま書かれている。
看板。 ビラ。 車のバンパーステッカー。 性犯罪者であることを表示した衣服。
もちろん、すべての登録性犯罪者に一律でこれらが義務付けられるわけではない。
しかし裁判所が必要と判断すれば、こうした方法による周知まで法律上可能になっている。
日本から見ると、かなり強烈だ。
被害者から約4.8km以内に住めない
ルイジアナ州は、公開だけで終わらない。
性犯罪で有罪となった者について、原則として事件の被害者から3マイル、約4.8キロ以内への居住を禁止する規定がある。
被害者から300フィート、約91メートル以内へ故意に近づくことも禁止される。
一定の場合を除き、被害者やその家族への連絡もできない。
また、子どもが被害者となった一定の性犯罪者については、学校、保育施設、遊び場、青少年施設などから1000フィート、約305メートル以内への居住や立入りを禁止する規定もある。
ここまで来ると、単に「性犯罪歴を記録しておく」という制度ではない。
どこに住み、どこへ行き、誰へ近づけるのかまで管理している。
仕事もSNSも制限する
仕事についても制限がある。
登録期間中の性犯罪者は、一定のバス・タクシー・リムジンの運転、他人の住宅へ入ってサービスを提供する仕事、訪問販売などに就けない。
未成年者が被害者だった場合には、さらに子どもと接触する可能性の高い仕事が制限される。
SNSに関する法律もある。
未成年者を被害者とした一定の登録性犯罪者などについては、対象となるSNSを意図的に利用すること自体を禁止する州法が存在する。
違反すれば、重い刑事罰につながる場合もある。
さらにハロウィーンやクリスマスなどで、一定の性犯罪者が子どもへ菓子やプレゼントを配ることまで禁止されている。
ルイジアナ州を見ると、性犯罪者対策の思想が日本とは大きく違う。
「また犯罪を起こしたら処罰する」だけではなく、「次の犯罪を起こしにくい生活環境を法律で作る」。
その考え方が極めて強い。
GPS足輪は、どうやって監視するのか
海外の電子監視を単純化すると、仕組みはこうなる。
足首に電子タグを固定 ↓ GPSで位置を取得 ↓ 携帯通信網などで監視システムへ送信 ↓ 学校・公園・被害者宅などに電子的な禁止区域を設定 ↓ 侵入すれば警報 ↓ タグを切る、壊す、通信を妨害しても警報
装置によっては、自宅にも別の受信機を設置する。
充電も、足から外して行うのではなく、装着したまま行う。
重要なのは、GPSそのものではない。
本人とGPSを簡単に切り離せないこと。
ここに電子足輪を使う意味がある。
日本が2027年度に始めようとしている、
「本人の同意を得る」
「身体には装着しない」
「GPS機器を所持してもらう」
という方式とは、同じGPS監視でもかなり中身が違う。
管理対象を、国籍で分けて考えることはできない
出所後の管理を考えるとき、もう一つ無視できないのが外国人による性犯罪だ。
警察庁統計における来日外国人の「不同意性交等」「不同意わいせつ」の検挙件数は、2022年の216件から2023年には258件へ増えた。
検挙人員で見ると、2025年は不同意性交等134人、不同意わいせつ188人で、合わせて322人だった。
前年2024年の296人から約8.8%増えている。
ただし「来日外国人」は、永住者や特別永住者などを除いた統計上の区分である。
また外国人の入国者数や在留者数自体も増えているため、この数字だけから「外国人は日本人より性犯罪を起こしやすい」と結論付けることはできない。
問題はそこではない。
日本国内で性犯罪を起こし、刑期を終えた外国人について、その後をどう管理するのか。
日本に残るのであれば、GPS監視、被害者への接近禁止、就業制限などを日本人と同様にどう適用するのか。
一方で、在留資格を失い退去強制の対象となる場合には、いつ、どの段階で退去させるのか。
外国人の受け入れが増え、日本社会の構成が変わるのであれば、性犯罪者の出所後管理についても国籍を問わず制度を設計する必要がある。
日本は本当に「緩い」のか
もちろん、ルイジアナ州の制度をそのまま日本へ持ってくればいい、という単純な話ではない。
性犯罪者であっても、刑期終了後には基本的人権がある。
GPSによる常時監視。
氏名や住所の公開。
居住制限。
職業制限。
SNS利用制限。
これらはいずれも、プライバシーや職業選択の自由、社会復帰と衝突する。
実際、海外でも過度な情報公開や表示義務を巡って裁判が繰り返され、一部制度は違憲と判断されてきた。
また「世界中が日本より厳しい」というわけでもない。
国や地域によって、対象犯罪、被害者の年齢、再犯リスク、仮釈放・保護観察の有無、監視期間、裁判所命令の必要性は大きく異なる。
それでも、韓国、台湾、カリフォルニア、英国、ドイツ、そしてルイジアナ州と比較すると、日本の出所後の位置監視、情報公開、居住・行動制限が限定的であることは見えてくる。
日本は今、ようやく、
本人の同意を得て、GPSを持ってもらう。
そこから実証を始めようとしている。
一方、海外ではすでに、その先にある問題と向き合っている。
刑期を終えた加害者の自由を、社会はどこまで認めるのか。
まだ存在していない「次の被害者」を、どこまで制度によって守るのか。
そして、その制度を国籍によって分けて考えてよいのか。
GPS導入は、その議論の入り口にすぎない。


