地球温暖化を止めるには、地球上の緑を増やせばいい。
森林は二酸化炭素を吸収する。砂漠や荒れ地に木を植えれば、吸収できる二酸化炭素も増える。これほど分かりやすい温暖化対策はないように思える。
だが、地球の気候はそれほど単純ではなかった。
木は二酸化炭素を吸収する一方、地表を暗くして太陽の熱を吸収する。根から水を吸い上げ、大気中へ放出する。森林が増えた場所だけでなく、風や雨を通じて遠く離れた地域の気候まで変える可能性がある。
そして何より、木が生えていない土地のすべてが「緑化すべき荒れ地」ではない。
草原には草原の、サバンナにはサバンナの、砂漠には砂漠の役割がある。
地球は、ただ緑に塗ればいいわけではなかった。
地球緑化は、全体としては温暖化を抑えている
最初に確認しておきたいのは、地球緑化そのものが有害だという話ではないことだ。
衛星観測を使った研究では、1982年から2014年に進んだ地球規模の植生増加は、地表面の変化を通じて10年当たり約0.018度の冷却効果をもたらし、同期間の温暖化を4.6%程度抑えたと推定されている。
緑が増えたことは、地球全体では温暖化の抑制に働いている。
問題は、その平均値の内側に大きな地域差があることだ。
熱帯で森林を再生すれば、二酸化炭素の吸収に加え、樹木から放出された水分が周辺を冷やす。一方、雪の多い寒冷地や、明るい砂地が広がる乾燥地では、森林によって地表が暗くなり、太陽光の吸収量が増える。
2024年に『Nature Communications』へ掲載された研究では、植林による二酸化炭素吸収だけを計算すると、気候への効果を最大81%過大評価する場合があると報告された。
研究が評価した現場プロジェクトの対象地点では、84%がアルベドの低下を差し引いても気候にプラスだった。一方、対象地点の約3分の2では炭素吸収による効果の少なくとも20%が地表の暗化によって相殺され、29%では半分以上が相殺されていた。場所によっては、二酸化炭素を吸収しているにもかかわらず、正味では温暖化を進める可能性さえある。
これは熱帯林の再生まで危険だという話ではない。蒸発散による冷却が強い熱帯では、森林再生の効果は大きい。特に慎重な判断が必要なのは、雪に覆われる寒冷地や、明るい地表を持つ乾燥地である。
木を植えた本数や、吸収した二酸化炭素だけでは、本当の温暖化対策効果は測れないのである。
木を植えれば、水が増えるとは限らない
森林が増えれば雨が増え、土地が潤う。これも、常に成立するわけではない。
樹木は地中から大量の水を吸い上げ、葉から大気中へ放出する。雨の多い地域では、この蒸散が雲や降雨を生み、気温を下げる方向に働く。しかし乾燥地では、降った雨以上に樹木が水を使い、川の流量や土壌水分を減らすことがある。
2022年に『Geophysical Research Letters』へ掲載された中国・黄土高原の研究では、大規模な植生回復によって、地域全体の水収支は改善した。ところが細かく見ると、乾燥地域を中心とする17.7%の土地では、利用可能な水が減少していた。特に森林化された場所は、草地や低木地より土壌水分が少なかった。
これは黄土高原の緑化全体が失敗だったという意味ではない。
同じ地域の中でも、雨量の多い場所では森林が成立し、乾燥した場所では草や低木の方が適しているということだ。
必要なのは、何を植えたかではなく、その土地が維持できる植生を選んだかという視点である。
草原は「木のない劣化した森林」ではない
世界の植林計画には、もう一つ大きな問題がある。
森林ではない土地を、森林を失った土地と見なしてしまうことだ。
草原やサバンナの中には、数千年、数万年にわたって火災や草食動物と共存してきた古い生態系がある。木が少ないのは、森林伐採によって荒廃したからではない。もともと、その姿で成立している。
2015年の研究では、世界で約900万平方キロに及ぶ古い草原生態系が、森林再生の候補地として誤って分類されていると指摘された。
そこへ一律に木を植えれば、草原固有の動植物を失う。放牧に使える土地が減り、土壌の水分や火災の起こり方も変わる。木が増えて衛星写真が緑になっても、生態系は豊かになるどころか、単純化してしまう可能性がある。
チリでは、政府の補助金によって外来樹種の植林地が拡大した。その結果、天然林が減少し、生物多様性を損なったうえ、地上部に蓄えられた炭素の総量も増えなかったと報告されている。
「木の本数を増やすこと」と「自然を回復すること」は、同じではない。
サハラを変えると、アマゾンの雨が減るのか
さらに規模が大きくなると、緑化の影響は国境どころか大西洋を越える。
サハラ砂漠の地表を大規模に変えた場合、アマゾンの降雨量が減る可能性を示した地球システムモデルがある。
ただし、これは正確には「サハラに木を植えた実験」ではない。
北アフリカの対象地域に巨大な太陽光発電施設を設置し、地表を暗くするシミュレーションだ。暗くなった地表で上昇気流が強まり、サハラの降雨と植生が増える。その結果、熱帯収束帯が北へ移動し、アマゾンへ運ばれる水蒸気の流れまで変わる。
対象地域の20%を太陽光パネルで覆ったケースでは、サハラの降雨が1日約0.1ミリ増える一方、アマゾンを含む熱帯の南米北部では降雨量が約10%減少した。50%を覆う極端なケースでは、減少幅は約30%に達した。
一方、5%のケースでは影響はかなり小さかった。
これは、一つのモデルによる巨大規模の仮想実験であり、小規模な砂漠緑化までアマゾンの雨を減らすと証明したものではない。それでも、広大な砂漠を人間が塗り替えれば、その影響が施工した場所だけでは終わらないことを示している。
サハラとアマゾンは、すでに別の形でもつながっている。
NASAの衛星観測によると、サハラから飛来する砂塵は、年間約2万2,000トンのリンをアマゾンへ運んでいる。これは、雨や洪水によってアマゾンから失われるリンとほぼ同程度だ。
砂漠は、何も生み出さない空白地帯ではない。
その砂もまた、遠く離れた森林を支えている。
大山修一教授の「ゴミによる緑化」は心配ないのか
京都大学の大山修一教授は、ニジェールで都市ゴミを利用した緑化に取り組んでいる。
公開されている実証では、約20ヘクタールの土地に3,750トンのゴミを投入している。ゴミが風で運ばれる砂や種子を受け止め、家畜のふんなども加わることで、荒廃した土地の植生と農地利用を回復させる試みだ。
この事業と、前述したサハラの巨大シミュレーションは、現時点では規模がまったく違う。
20ヘクタールは0.2平方キロである。対する研究は、百万平方キロ級の地表を一度に暗くする想定だ。大山教授の実証地がアマゾンの降雨を減らすと考える根拠はない。
むしろ現在の大山方式は、砂漠全体を森林に変える計画というより、都市の廃棄物問題と、住民が利用する荒廃地の回復を同時に解決する地域再生として見るべきだろう。
ただし、将来この方式がサヘル全域へ大規模に広がるなら、評価項目も変える必要がある。
土地が緑になったかだけでなく、水収支、地表の反射率、砂塵の発生量、在来生態系、廃棄物に含まれる有害物質、そして多数の事業を合わせた累積的な気候影響まで測る必要が出てくる。
なお、現状の実証で有害物質による被害が報告されているという意味ではない。事業を大規模化するなら、投入する廃棄物の選別と継続的な監視を制度化する必要がある、という将来の論点である。
小さな実証で正しいことが、大陸規模でも同じとは限らないからだ。
必要なのは「緑化」ではなく「生態系の回復」
世界の緑化政策も、すでに考え方を変え始めている。
アフリカのサヘル地域を横断する「グレート・グリーン・ウォール」は、かつて砂漠の南側に一直線の森林帯を造る構想として知られていた。現在は、草原、サバンナ、農地、低木地、森林を組み合わせ、住民の生活と土地の機能を回復させる事業へ変わっている。
国連食糧農業機関も、森林景観の回復について、樹木被覆を最大化することから、水循環、土壌、生物多様性、農業、地域住民の生活を含む複数の機能を回復することへ転換すべきだとしている。
温暖化対策として地球緑地化を進めるなら、順番はこうなる。
まず、化石燃料の使用を減らす。
次に、すでに存在する天然林、泥炭地、湿地、草原を壊さない。
そのうえで、森林だった場所には森林を、草原だった場所には草原を、湿地だった場所には水を戻す。木を植える場合も、二酸化炭素の吸収量だけでなく、地表の反射率、水、火災、生物多様性、食料生産、住民の権利まで含めて判断する。
重要なのは、地球上の緑色の面積を最大化することではない。
その土地に本来あった生態系の働きを取り戻すことである。
地球は、一色の緑で塗りつぶせば救われるわけではない。
森には森の、草原には草原の、湿地には湿地の、そして砂漠には砂漠の役割がある。
脱温暖化に必要なのは、ただ木を増やす「緑化」ではない。
地球の複雑さを壊さない、正しい生態系の回復なのである。
参考資料
- Nature Communications:植林の炭素効果とアルベドの相殺
- Nature Communications:地球規模の植生増加による冷却効果
- Geophysical Research Letters:中国・黄土高原の植生回復と水収支
- BioScience:古い草原生態系を森林再生地と誤認する問題
- Nature Sustainability:チリの植林補助金と天然林・炭素への影響
- Geophysical Research Letters:サハラの大規模太陽光発電と世界の気候
- NASA:サハラの砂塵がアマゾンへ運ぶリン
- FAO:森林景観回復の考え方
- UNEP:現在のグレート・グリーン・ウォール
- 大山修一教授のニジェール緑化事業


