ジャングリア沖縄は「遠すぎる壁」を克服できるのか?

ジャングリア沖縄は「遠すぎる壁」を克服できるのか?

2025年7月、沖縄本島北部に大型テーマパーク「ジャングリア沖縄」が開業した。

総事業費は約700億円。

開業前には大規模な広告が展開され、テレビでも盛んに紹介された。

沖縄の大自然を舞台にした恐竜サファリ、気球、アドベンチャー、スパ。

既存のテーマパークとは違う「Power Vacance!!」を掲げた巨大プロジェクトだった。

開業から1年。

運営会社ジャパンエンターテイメントによると、初年度の来場者数は約100万人、売上高は100億円超の見通しとなった。

この約100万人は、テーマパークだけではなく「ジャングリア沖縄」と「スパ ジャングリア」の利用者を合わせた延べ人数である。

100万人。

決して小さな数字ではない。

それでも加藤健史CEOは、来場者数について、

「残念ながら、思うような数字に至らない」

と認めている。

開業前には、美ら海水族館の年間約300万人の半分程度となる約150万人が採算の一つの目安になるとの報道があった。

森岡毅氏自身も開業時の式典で、年間150万~200万人程度で採算が取れるとの見通しを示したと報じられている。

初年度の約100万人は、事業側が期待していた水準には届かなかった。

実際に訪れた人からは、

「思ったより楽しかった」
「スタッフの対応が良かった」
「ダイナソーサファリが面白かった」

といった評価もある。

それでも客足は期待した水準に届かない。

ジャングリアには、開業時から抱えていたいくつもの問題が重なっている。

最初につまずいたジャングリア

開業前には大量の広告が流れた。

全国ネットのテレビ番組も現地を訪れ、大型テーマパークの誕生として全国的に大きな注目を集めていた。

認知度は高かった。

その期待を、開業直後から十分に受け止めることができなかった。

人気アトラクション「ダイナソー サファリ」では200~300分の待ち時間が発生。

夏の沖縄で、日陰や休憩場所が足りないという声も出た。

オペレーションへの不満も相次いだ。

森岡毅氏自身も、開業1年後のインタビューで、

「迎える側の準備が不足していた」

と認めている。

さらに、

「開業時の準備不足は、初速のパークの評判に大きな影響を与えました」

とも語っている。

ジャングリアは、最もスタートダッシュを失敗したくない場所にあるテーマパークだった。

SNS時代では「最初の客」が広告になる

開業初日に訪れた人が、その日のうちにX、YouTube、TikTok、Googleなどへ感想を投稿する。

待ち時間が長い。

暑い。

日陰がない。

思ったほどアトラクションに乗れない。

食事が高い。

期待していたものと違った。

そうした体験が一瞬で全国へ伝わる。

開業直後の客そのものが広告になる時代だ。

広告費を払って作ったCMより、実際に金を払って訪れた人の動画を信用する人も多い。

ジャングリアでは、開業前の広告によって期待値が大きく上がった直後に、利用者によるネガティブな情報が広がった。

マーケティングによって高めた期待値が、逆方向にも作用した。

そしてジャングリアは、遠い

評判を落とした店でも、近所なら、

「最近良くなったらしい」

と聞けば、もう一度行くことができる。

ジャングリアは沖縄本島北部にある。

本土からなら、まず飛行機で沖縄へ行く。

さらに那覇から北部へ移動しなければならない。

現在も那覇空港や那覇市内などから直行する「ジャングリア エクスプレス」が運行されている。

開業時の公式資料では、那覇空港・那覇市内とジャングリアを結ぶ便は片道2,500円。

単純往復なら5,000円だ。

「評判が悪いけど、自分で確かめてみよう」

そのための時間と金のコストが高い。

初動の失敗が、立地によってさらに重くなった。

運営の一部は改善された

開業時に200~300分だったダイナソー サファリの待ち時間は、同規模の来場者を迎えた日でも約60分まで短縮されたという。

1人あたりの平均アトラクション体験数も、開業当初の2.3個から4.5個へ増えたと運営会社は説明している。

暑さ対策にも数億円を投入。

大型屋根付き休憩スペース、シェード付き飲食席、大型ミストファンなどを追加した。

新アトラクションも導入されている。

運営会社自身も開業1周年に、

「開業した当時は、ゲストの皆様に思うように体験をお届けすることができず、課題が残るスタートとなりました」

と振り返っている。

開業当初と比べて改善した部分はある。

それでも集客には苦戦している。

改善しにくい問題が残る

待ち時間は改善できる。

フードも改善できる。

オペレーションも改善できる。

日陰も増やせる。

アトラクションも追加できる。

簡単には変えられないのが立地だ。

ジャングリアは沖縄北部から動かせない。

そして、この立地問題は単に「遠い」で終わらない。

「客を運ぶ」こと自体が事業になる

東京ディズニーリゾートにはJR舞浜駅がある。

USJにはJRユニバーサルシティ駅がある。

巨大都市圏がすでに持っている大量輸送インフラを利用できる。

ジャングリア周辺には、鉄道による大量輸送網がない。

開業前から交通シミュレーションが行われ、1日1万人が来場した場合、主要ルートである県道84号では1日1,000~2,000台の交通量増加が予測されていた。

シャトルバス、場外駐車場、予約制駐車場などを組み合わせた交通対策が必要になった。

開業時の公式資料には、チケット販売数量についても、

「公共交通の予測利用人数」

「駐車場の受入可能台数」

を考慮すると明記されている。

客を集めたら、その客を現地まで運ばなければならない。

客が少なくても困る。増えても困る

バスを増やすには車両がいる。

ドライバーもいる。

燃料、整備、運行管理も必要になる。

需要は毎日一定ではない。

ピーク需要に合わせて大量の輸送能力を確保すれば、客が少ない日には余る。

便数を減らせば、客が増えたときに運べない。

道路そのものにも容量がある。

客が少なければ採算が苦しい。

客が大幅に増えれば、輸送能力と交通インフラが問題になる。

東京ディズニーリゾートやUSJでは、大量輸送機能の大部分を既存の公共交通インフラが担っている。

ジャングリアでは、その一部を事業側が補わなければならない。

「アクセスが悪い」という利用者側の問題だけではなく、大量の客を運ぶ交通機能そのものが事業コストになる。

「ふらっとチケット」という改善策

1周年では、短時間でジャングリアを楽しめる「ふらっとチケット」を導入した。

沖縄旅行の丸一日をジャングリアに使うのではなく、数時間だけ組み込んでもらう狙いだ。

ただ、ジャングリアは「ふらっと」行ける場所ではない。

那覇方面から数時間の滞在のために往復するなら、移動時間まで含めて相当な時間を使う。

滞在時間を短くしても、目的地までの距離は短くならない。

もう一つの弱点――「キャラ推しの複利」がない

ジャングリアには、ディズニーやUSJのような巨大IPがない。

IPは単なる人気キャラクターではない。

映画を見る。

ゲームをする。

アニメを見る。

キャラクターを好きになる。

グッズを買う。

SNSで追いかける。

新作が公開される。

そして、

「その世界へ行ってみたい」

と思う。

テーマパークの外側で、来園動機が何年にもわたって作られ続ける。

ディズニーならミッキーマウスやプリンセス。

USJならマリオ、ハリー・ポッター、ミニオン。

ジブリパークなら、何十年も蓄積された作品への愛着がある。

ジャングリアには、この「キャラ推しの複利」がまだ弱い。

一度ネガティブな評判が広がったとき、それでも来てくれる熱狂的なファンという「需要の床」も作りにくい。

後から巨大IPを作るのは難しい

ミッキー、マリオ、ポケモン、ハリー・ポッター、ONE PIECE、ドラゴンボール。

こうしたIPの強さは、キャラクターデザインだけから生まれたものではない。

作品、物語、ゲーム、映画、漫画、アニメ、ファンコミュニティ。

長い蓄積がある。

強力なIPがないことは、フードや待ち時間のように翌年すぐ改善できる問題ではない。

立地と同じく、時間がかかる。

客だけではない。「有名人」にも遠い

沖縄北部という立地が遠ざけるのは、来場者だけではない。

テレビ番組、そこに出演する人気タレントにとっても遠い。

東京ディズニーリゾートやUSJでは、新しいアトラクションや季節イベントが始まるたび、人気タレントを起用したテレビロケや情報番組での紹介が繰り返される。

有名人が新しいアトラクションに乗る。

人気俳優やタレントが新しいフードを食べる。

芸人がパーク内を歩き回る。

その様子がテレビ番組として全国へ届けられ、「行ってみたい」という新しい動機になる。

東京ディズニーリゾートは首都圏。

USJは大阪の巨大都市圏にある。

ジャングリアで東京から人気タレントを呼ぶなら、飛行機で沖縄へ移動し、那覇からさらに北部へ向かわなければならない。

旅費だけではない。

人気タレントの時間も長く使う。

開業時には、多くのテレビ番組と有名人がジャングリアを訪れた。

ただ、それは大型テーマパークが誕生するという一度しか使えない大きなニュースでもあった。

開業後も、

「人気タレントを沖縄北部まで連れて行って一本撮ろう」

とテレビ制作側に思わせる企画を作り続けられるか。

ディズニーやUSJには、新しい映画、キャラクター、季節イベント、新アトラクション、新エリア、周年企画がある。

IPが新しい話題を生み、そのたびにテレビや有名人を通じて新しい来園動機が作られる。

ジャングリアには、現時点でこの循環が弱い。

一方で、YouTuberは現地へ向かう

YouTuberは比較的機動的に現地へ向かう。

実際に訪れた動画には、

「思ったより楽しかった」
「スタッフの対応が良かった」
「ダイナソーサファリは面白かった」

という評価もある。

一方で、

「ガラガラだった」

という現地映像も投稿される。

YouTubeでは、

「改善されたジャングリアを楽しんできた」

より、

「700億円のテーマパークがガラガラだった」

の方が強いコンテンツになることもある。

全国テレビと人気タレントによるポジティブな再露出には大きなコストがかかる。

「ガラガラだった」という映像は、YouTubeやSNSを通じてすぐ全国へ広がる。

ジャングリアは、そうした情報環境にも置かれている。

半年65万人。そして1年で100万人

運営会社によれば、開業半年で約65万人が来場した。

初年度は、パークとスパを合わせた延べ利用者数で約100万人。

単純差し引きなら、最初の半年が約65万人、その後の半年が約35万人となる。

沖縄観光には季節変動がある。

森岡氏自身も、夏場には多くの予約があった一方、オフシーズンに入ってから集客カーブが想定から乖離したと説明している。

開業時の大きな注目を、持続的な需要に十分つなげられなかった。

「最初は客を呼べた」と言えるのか

開業直後には混雑した。

新規開業。

大量の広告。

全国ネットのテレビ。

有名人。

大きなニュース報道。

これらが集中する開業直後には、大きなブーストがかかる。

そこで混雑することと、年間を通して事業を成立させる需要があることは同じではない。

開業というイベントが終わった後にも、沖縄北部まで人を動かし続けられるか。

ジャングリアが問われたのはそこだった。

改善しても、評判の上書きが難しい

森岡氏は、

「開業直後の混乱時の印象のまま、ご認識がまだ上書きされていない方が多い」

と語っている。

評判を上書きするには、実際に人が行き、体験し、楽しかったと発信し、それを見た別の人がまた行く必要がある。

ジャングリアでは、

「最近良くなったらしい」

の次に、

「でも沖縄北部か……」

が入る。

改善した部分を実際に体験してもらうこと自体のハードルが高い。

遠さは、新規集客だけでなく、失った評判を取り戻すことまで難しくする。

本来、開業前に解決できた問題はなかったか

待ち時間。

日陰。

暑さ。

飲食。

オペレーション。

実営業を始めなければ分からないことはある。

一方で森岡氏自身も、

「開ける前に気づいておくべきだった反省もあります」

と認めている。

沖縄の夏が暑いことは分かっていた。

想定来場者数もあった。

アトラクションの処理能力も計算できる。

飲食店の席数も設計できる。

交通シミュレーションも開業前から行われていた。

しかもジャングリアは、テーマパークやレジャー施設の再生で実績を持つプロフェッショナル集団が手掛けた大型プロジェクトだった。

開業後に改善した問題のうち、どこまで開業前に準備できたのか。

最も初動を失敗したくない立地で、初動に大きな改善余地を残した。

ジャングリア最大の壁は、やはり「遠い」こと

沖縄北部は遠い。

だからテーマパークには向いていない。

そういう単純な話ではない。

遠くても人は行く。

そこでしか得られない体験があれば飛行機に乗る。

強烈に好きな作品の世界があれば、そのために旅行する。

一生に一度は見たい景色なら、何時間かけても向かう。

必要なのは、距離を超えてでも行きたいと思わせる理由だ。

東京ディズニーリゾートやUSJは巨大都市圏にあり、鉄道による大量輸送ができる。

そのうえで世界的なIPまで持っている。

ジャングリアは沖縄北部という遠い場所にある。

だからこそ都市型テーマパーク以上に、

「ここでなければ体験できない」

という理由が必要になる。

さらに開業直後には、待ち時間、暑さ、日陰、飲食、オペレーションへの不満が広がった。

遠い場所まで来てもらう。

そこで満足してもらう。

もう一度行きたいと思ってもらう。

そのすべてのハードルが高かった。

交通にも同じ問題がある。

客を増やせば、その人たちを沖縄北部まで運ばなければならない。

バスを増やせば車両もドライバーも必要になる。

需要が急増すれば道路や輸送能力がボトルネックになる。

メディアにも遠い。

有名人にも遠い。

そして、その距離を飛び越えて人を動かす巨大IPもまだない。

ジャングリアの勝負は、

「どうすれば近くできるか」

ではない。

立地は変えられない。

ならば、

「遠くても行きたい」

をどこまで作れるかだ。

アトラクションなのか。

沖縄の自然なのか。

食なのか。

スパなのか。

ホスピタリティなのか。

新しいIPなのか。

それらを組み合わせた、ジャングリアでしか成立しない体験なのか。

待ち時間を短くすることと、

「沖縄北部まで行きたい」

と思わせることは別の課題だ。

後者は、目的地そのものの価値を作る仕事になる。

では、どうすればいいのか

広告を増やせば、再び期待値だけを上げる危険がある。

値下げすれば、客単価が下がる。

バスを増やせば、車両、ドライバー、運行コストが増える。

大量に客を呼べば、道路と輸送能力が問題になる。

巨大IPを導入すれば、ライセンス料と追加投資が必要になる。

オリジナルIPを育てるにも時間がかかる。

簡単な答えはない。

立地そのものを変えることはできない。

ならば、

「そこまでしてでも行きたい」

と思わせる価値を作るしかない。

アクセスの不利をなくすのではなく、それを上回る魅力を作る。

ジャングリアが問われているのはそこだ。

ジャングリアは「失敗したテーマパーク」なのか

開業から1年。

パークとスパを合わせて延べ約100万人が利用し、100億円を超える売上も見込まれている。

沖縄北部に新しい観光需要を作ったことも事実だ。

運営の一部も改善された。

一方で、運営会社自身が来場者数について「思うような数字に至らない」と認めている。

ジャングリアの1年目で見えたのは、マーケティングだけでは解決できないテーマパーク事業の難しさだった。

人を知る。

人を動かす。

そして、動かした人を実際に現地まで運び、満足させ、もう一度来たいと思わせる。

ジャングリアは、そのすべてをほぼ一から作る必要があった。

最大の壁は「遠さ」だ。

そして、その壁は動かせない。

だからこそ、ジャングリアのこれからを左右するのは、

その「遠さ」を超えてでも行きたいと思わせる魅力を作れるかどうか。

ジャングリアの本当の勝負は、2年目から始まる。

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