半導体、EV、スマートフォン、風力発電、ミサイル、戦闘機。
現代のハイテク製品には、さまざまな金属が使われている。
ニュースでは「レアメタル」「レアアース」という言葉が頻繁に登場するが、この二つは同じものではない。
なぜ中国の輸出規制が世界の産業を揺らすのか。
日本には資源がないと言われながら、なぜ南鳥島沖の海底資源が注目されているのか。
半導体を材料から見ると、世界経済や安全保障までつながってくる。
■ レアメタルとは何か
レアメタルは、鉄や銅、アルミニウムのように大量に使われる金属とは違い、産出量が少なかったり、採掘や精製が難しかったりする金属の総称だ。
「レアメタル」という名前の元素があるわけではない。
日本では経済産業省などが、産業上重要で供給リスクの高い金属をレアメタルとして扱っている。
代表的なものには、
リチウム
コバルト
ニッケル
タングステン
モリブデン
ガリウム
ゲルマニウム
インジウム
などがある。
用途もさまざまだ。
リチウムやコバルト、ニッケルはEVなどのバッテリーに使われる。
タングステンは非常に硬く、高温にも強いため、切削工具や特殊鋼などに使われる。
ガリウムやゲルマニウムは半導体や通信機器などに使われる。
■ 「レア」だから地球上に少ないとは限らない
レアメタルと呼ばれる元素のすべてが、地球上にほとんど存在しないわけではない。
問題になるのは、経済的に採掘できる濃度で存在しているか、分離や精製が容易か、安定して供給できるかだ。
鉱石の中に目的の元素が少量しか含まれていなければ、大量の岩石を掘り、砕き、分離しなければならない。
精製に大量のエネルギーや薬品が必要になることもある。
環境負荷が大きく、採算が合わなければ、資源が存在していても商業生産にはつながらない。
■ レアアースはレアメタルの一部
レアメタルとレアアースは混同されやすい。
レアアースは「希土類元素」と呼ばれる17元素の総称だ。
スカンジウム、イットリウムに加え、ランタン、セリウム、ネオジム、ジスプロシウムなどのランタノイド15元素が含まれる。
日本では、レアアースはレアメタルの一部として扱われる。
つまり関係は、
レアメタル
└ レアアース
となる。
レアアースの中でもよく知られているのがネオジムだ。
ネオジム磁石は非常に強力で、EVのモーター、風力発電機、ハードディスク、ロボットなど幅広い分野で使われる。
ジスプロシウムなどを加えることで、高温でも磁力を維持しやすくなる。
EVや再生可能エネルギー、防衛産業が拡大するほど、こうした元素の重要性も高まる。
■ 半導体にも多くのレアメタルが使われる
Vol.1では、半導体の中心材料としてシリコンを紹介した。
実際の半導体産業では、シリコンだけでなく多くの元素が使われている。
ガリウムは、窒化ガリウム(GaN)やガリウムヒ素(GaAs)などの化合物半導体に使われる。
高周波通信、基地局、衛星、レーダー、パワー半導体などで重要な材料だ。
ゲルマニウムは光ファイバーや赤外線機器、半導体などに使われる。
タングステンやコバルトも、半導体製造の配線や電極などで利用される。
半導体産業は、シリコンだけを確保すれば成立する産業ではない。
■ 鉱山から金属がそのまま出てくるわけではない
資源のニュースでは「埋蔵量」や「生産量」が注目されやすい。
だが、鉱山から掘り出した鉱石を、そのまま半導体やEVに使うことはできない。
採掘した鉱石は砕かれ、目的の成分を取り出し、不純物を除去し、必要な純度まで高められる。
大きく分ければ、
採掘
↓
選鉱
↓
分離
↓
精製
↓
材料化
↓
部品・製品
という工程を通る。
鉱山を持つ国と、分離・精製を担う国が同じとは限らない。
■ 中国が強いのは「掘る」だけではない
レアアースでは中国が圧倒的な存在感を持つ。
米国地質調査所(USGS)などの統計では、中国は世界最大のレアアース生産国だ。
さらに大きいのが、分離・精製工程でのシェアだ。
国際エネルギー機関(IEA)によると、レアアースの採掘では中国のシェアは世界の約6割だが、分離・精製では約9割に達する。
鉱石が他国で採れても、製品に使える材料にする工程を中国が握っている。
この構造が、中国の輸出規制が世界の製造業に大きな影響を与える理由になっている。
■ なぜ中国に集中したのか
中国にレアアースが集中している理由は、単に資源が豊富だからではない。
採掘から分離、精製まで大規模な産業を構築してきたことが大きい。
レアアースの分離・精製は複雑で、薬品や大量の水を使い、廃液などの環境問題も生じる。
先進国では環境規制やコストの問題から縮小した工程を、中国が大規模に引き受けてきた。
長年の設備投資によって技術や人材、関連企業も集積した。
価格だけではなく、産業基盤そのものが中国に集中している。
■ 日本はレアアース危機を経験している
日本にとってレアアースの供給問題は新しい話ではない。
2010年、尖閣諸島沖で中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突した事件の後、中国から日本へのレアアース輸出が滞った。
この経験を受け、日本は供給先の多角化、代替材料の開発、使用量削減、リサイクルなどを進めてきた。
オーストラリアなど中国以外からの調達も拡大した。
それでも中国が世界の分離・精製で大きなシェアを持つ構造は残っている。
■ なぜレアメタルが安全保障の問題になるのか
レアメタルやレアアースは、民生品だけに使われているわけではない。
戦闘機、ミサイル、レーダー、人工衛星、通信機器、ドローンなどにも使われる。
高性能な磁石、耐熱合金、半導体、センサー、光学機器。
現代の兵器は大量の電子部品と特殊材料によって作られている。
その供給を特定の国に大きく依存すれば、外交関係の悪化や輸出規制がそのまま安全保障上のリスクになる。
アメリカやEU、日本が重要鉱物のサプライチェーン再構築を進めている背景には、この問題がある。
■ 日本近海にも大量の資源がある
日本は「資源のない国」と言われてきた。
しかし、日本の排他的経済水域(EEZ)を含む海底には、さまざまな鉱物資源が存在する。
特に注目されているのが南鳥島周辺だ。
南鳥島は東京から約1,900キロ離れた太平洋上の島で、日本のEEZが広がっている。
周辺の深海底には、レアアースを高濃度で含む「レアアース泥」が存在することが確認されている。
研究では、非常に大きな資源量が存在する可能性が示されている。
■ 海底にあるだけでは資源にならない
南鳥島周辺のレアアース泥は、水深5,000〜6,000メートル級の深海に存在する。
そこから大量の泥を引き上げ、船上まで運び、レアアースを分離・精製しなければならない。
必要になるのは、
深海からの採泥技術
大量の泥を引き上げる技術
輸送
分離・精製設備
コスト削減
環境影響への対応
などだ。
大量のレアアースが海底に存在することと、安定した商業生産ができることは同じではない。
日本近海で採掘できても、分離・精製を海外に依存すれば、サプライチェーン上の依存は残る。
■ 都市そのものが「鉱山」になる
日本にはもう一つの資源がある。
使用済みのスマートフォン、パソコン、家電、電子基板などだ。
これらには金、銀、銅、パラジウムなど多くの金属が含まれている。
廃棄された電子機器から金属を回収する考え方は「都市鉱山」と呼ばれる。
東京2020オリンピック・パラリンピックのメダルも、全国から集めた使用済み携帯電話などの小型電子機器から回収した金属で作られた。
資源を海外から掘って運ぶだけでなく、国内にすでに存在する製品から回収する。
資源価格が上がり、供給リスクが高まるほど、リサイクルの価値も高まる。
■ レアメタルを見ると世界の産業構造が見える
レアメタルのニュースを見るとき、「どこに埋まっているか」だけでは全体像は分からない。
どこで採掘するのか。
どこで分離するのか。
どこで精製するのか。
どこで材料に加工するのか。
どの企業が部品を作るのか。
半導体もEVもAIも、その上に成り立っている。
日本近海で巨大な資源が見つかっても、採掘・分離・精製まで産業として成立しなければ、すぐに中国依存がなくなるわけではない。
逆に、鉱山を持たない国でも、精製技術や材料技術、リサイクル技術を握ればサプライチェーンの重要な位置を占めることができる。
半導体を入り口に材料までたどっていくと、AIやスマートフォンのニュースが、資源、貿易、安全保障のニュースとつながってくる。
元素周期表を、手で触って覚える
レアメタルやレアアースは、名前だけを並べるとなかなか覚えにくい。
元素周期表をマグネットキューブで組み立てられる知育玩具もある。化学に興味を持ち始めたお子様へのプレゼントにも面白そうだ。
もちろん、大人がデスクに置いて眺めるのもあり。


