「赤い羽根共同募金」と聞けば、子どもの頃を思い出す人も多いだろう。
学校で募金箱を持ち、駅前や商店街で「赤い羽根共同募金にご協力お願いしまーす」と声を張る。何の団体なのか。集めたお金はどこへ行くのか。そんなこともよく分からないまま、募金をお願いした記憶がある。
その赤い羽根共同募金で、2026年、北海道共同募金会の元事務局長による巨額の着服疑惑が発覚した。
当初判明した約1億8000万円に加え、新たに約7000万円の使途不明金も判明。問題となっている金額は計約2億5000万円に膨らんだ。
約1億8000万円は、懲戒解雇された元事務局長が繰り返し着服していた疑いがある。追加の約7000万円については、元事務局長の関与や役員の責任も含め、第三者委員会が調査する。
では、そもそも赤い羽根共同募金とは何なのか。
誰が運営しているのか。職員はいるのか。募金から給料をもらって生活している人はいるのか。役員報酬はあるのか。なぜ自治会が募金を集めているのか。
本気で調べてみた。
昔の赤い羽根は、かなり危うい運営だった
赤い羽根共同募金が始まったのは1947年。戦後間もない時期から続く、80年近い歴史を持つ募金運動だ。
1950年代の厚生省の通知を読むと、現在では考えにくいような問題が並んでいる。
1956年、厚生省は共同募金について、募金を集めた支会や分会が事務費を天引きしないこと、羽根やバッジの代金を募金額から差し引かないこと、正規の簿記で会計処理すること、都道府県共同募金会が下部組織を内部監査することなどを求めた。(厚生労働省)
それでも問題は続いた。
1958年の厚生省通知には、集めた募金を翌年度の募金開始直前まで送金していなかったケース、募金の一部を地元の事務費として天引きしていたケース、社会福祉協議会への配分を申請書も取らず一定割合で「還元」していたケース、配分金の領収書を取っていなかったケースなどが記録されている。
支会や分会の経理についても「明確を欠いている向が多い」と指摘された。(厚生労働省)
国の行政監察が入った
1967年、行政管理庁が共同募金事業を行政監察した。
翌年の厚生白書には、共同募金会の役員や評議員に募金の配分を受ける側の関係者が多く含まれていたこと、募金額の5割以上が社会福祉協議会に配分され、その人件費や事務費に多く使われていたこと、募金の収納や経費支出にも不適正なものがあったことが記されている。(厚生労働省)
厚生省は行政管理庁の勧告を受け、各都道府県に改善を通知した。
社会福祉協議会の職員人件費や事務費についても、できるだけ会費収入や国・地方公共団体の補助金などで賄い、共同募金の配分金に依存しないことが望ましいとした。
募金の天引きをやめ、寄付金の出納責任者を明確にし、帳簿を整備することも求めた。(厚生労働省)
赤い羽根共同募金は、問題を指摘され、監査され、制度を修正してきた。
では、現在はどうなっているのか
2024年度の赤い羽根共同募金は、全国で165億2189万6591円を集めている。
そのうち最も大きいのは、駅前で見かける街頭募金ではない。「戸別募金」だ。
2024年度は約110億円。全体の66.6%を占める。法人募金は11.9%、職域募金4.1%、街頭募金1.7%、学校募金は1.4%だった。
赤い羽根共同募金を支えている最大の集金網は、現在でも各家庭だ。その戸別募金で大きな役割を果たしてきたのが、自治会や町内会などの地域組織である。
「県の募金」ではない
「神奈川県共同募金会」「北海道共同募金会」と聞くと、県庁や道庁の組織のようにも見える。
それぞれ独立した社会福祉法人だ。
共同募金は都道府県単位で行われるが、都道府県が直接募金を集めているわけではない。社会福祉法でも、共同募金は都道府県の区域を単位として行う寄付金募集と定められている。(厚生労働省)
東京には「中央共同募金会」があるが、これも全国47支店を束ねる本社ではない。各都道府県共同募金会の連絡・調整などを担う連合会という位置づけだ。
赤い羽根で生活している職員もいる
赤い羽根共同募金は、ボランティアだけで運営されているわけではない。
中央共同募金会には常勤職員がいる。給与規程も公開されており、俸給、地域手当、扶養手当、管理職手当、住宅手当、通勤手当、超過勤務手当、期末・勤勉手当などが規定されている。
基本となる俸給には、国家公務員の行政職俸給表(一)が準用されている。
赤い羽根共同募金の仕事を職業として、その給与で生活している人は普通にいる。
役員にも報酬制度がある。
非常勤理事は会務への従事1時間あたり5800円、理事会などへの出席日当は1回3000円と規定され、常勤役員には別の報酬制度がある。
中央共同募金会の会長は、元厚生労働事務次官の村木厚子氏だ。
一見すると「天下りではないか」と思うが、会長は非常勤。公開されている報酬制度を見る限り、元官僚が高額な会長報酬を受け取るためのポストと単純に見ることはできなかった。
一方、実務を担う常務理事には厚労省出身者もいる。行政との人的なつながりはあるが、それだけを根拠に「赤い羽根は天下り組織」と断定する材料にはならない。
お金の使い道もかなり公開されている
共同募金会の決算、事業報告、役員名簿、報酬規程などは公開されている。全国の助成先も確認できる。
職員の人件費も運営費もかかる。募金を集め、審査し、配分し、広報する以上、運営する人と経費は必要になる。
現在の赤い羽根共同募金は、「集めた募金の行方が分からない巨大募金」という姿ではなかった。
過去に問題を指摘され、監査やルール整備を重ね、使途や運営状況を公開する仕組みへ変わってきた。
それでも北海道で2.5億円問題は起きた
北海道共同募金会では、年間6〜7億円で推移する寄付金を元事務局長が1人で管理していた。
外部の会計士による監査も毎年行われていたが、2020年ごろから着服が行われていた疑いがある。
年度末に取引業者から一時的に金を借り、決算を越えた後に返済する。理事会の承認がない議事録を作成して金融機関から借り入れ、不足金を一時的に補う。調査では、こうした処理も確認された。(テレ朝NEWS)
中央共同募金会は北海道の問題について、内部牽制が機能しなかったことが事案発生の要因としている。
事件後、北海道を除く46都府県共同募金会を対象に出納業務の緊急一斉点検を実施し、中央共同募金会自身も点検対象とした。
赤い羽根共同募金を調べると、想像していたより制度は整っていた。
職員がいて、給与が出る。役員報酬もあり、行政OBもいる。それらは決算や規程とともに公開されている。
約80年の歴史を振り返れば、募金の天引き、曖昧な経理、社会福祉協議会の人件費への依存などが問題となり、国の行政監察まで受けた。
そこから制度を修正してきた。
それでも北海道では、年間6〜7億円の寄付金を1人が管理していた。
制度がどれだけ整っていても、金を扱う人間をチェックする人間がいなければ、不正は防げない。
赤い羽根共同募金を本気で調べて、最後に残ったのは北海道共同募金会の運用だった。


