「深夜に来る」
「何度もチャイムを鳴らす」
「玄関先で大声で名前を呼ぶ」
「なかなか帰らない」
かつて、NHKの受信契約をめぐる戸別訪問には、そんな苦情が寄せられていた。
2018年度には、NHKふれあいセンターに寄せられた訪問員への苦情が約3万7000件。全国の消費生活センターにも、NHK関連の相談が8000件を超えて寄せられている。
国会では、女性の単身世帯への深夜訪問、名前や訪問目的を言わないケース、土足で上がり込むケースまで取り上げられた。
そのNHKの戸別訪問が、再び始まった。
NHKは2026年9月、新規の受信契約を獲得するため、外部法人による戸別訪問を再開した。2023年9月までに全廃していた方式だ。
今月から2社に委託し、東京、大阪、名古屋などの都市部で開始したと報じられている。他地域への拡大も検討している。
廃止前より少額ではあるものの、営業成果に応じた報酬も支払われるという。
それ以前の戸別訪問は、どのようなものだったのか。
「在宅時間を把握して訪問」がポイントだった
2010年代前半、NHKは各家庭を訪問して受信契約などを行う「地域スタッフ」を募集していた。現在も当時の求人情報が残っている。
仕事内容は、新規の受信契約、地上契約から衛星契約への変更、受信料の収納など。業務委託で、報酬は基本報酬に歩合を加える仕組みだった。
ある求人では「月間50万円以上」の収入を得るスタッフもいると紹介され、年2回の報奨金も設定されていた。
別の求人では「完全歩合制」とし、平均収入は月額37万円程度、月50万円以上のスタッフもいるとしていた。
仕事の進め方については、
「お客様の在宅時間をしっかり把握して訪問することがポイント」
と説明している。
午前中に訪問し、不在だった家には夕方以降に再訪問。夕方から夜間、土日など、在宅している時間を狙った訪問が勧められていた。
1日70~100軒、朝から夜まで
2014年の国会では、当時の地域スタッフの仕事ぶりが具体的に取り上げられている。
スタッフ1人が担当するのは、およそ2万世帯。
1日に70~100軒を訪問し、実際に会えるのは30軒程度。契約まで至るのは2~3軒程度だったという。
昼間は留守の家庭もあるため、朝から夜まで断続的に訪問を続ける。
何時何分にどの家を訪問したかも携帯端末に記録され、NHK側が業績管理や指導に利用していたと国会で説明されている。
苦情3万7000件
2018年度、NHKふれあいセンターに寄せられた訪問員への苦情は約3万7000件に達した。
国会で取り上げられた内容には、女性の単身世帯への深夜訪問、訪問員が名前や目的を明らかにしないケース、土足で家に上がり込むケースもあった。
翌2019年には、総務省が国会でNHKの苦情対策について説明している。
夜間訪問への苦情を防ぐため、再訪問することを書いた不在票を投函するという対策も取られていた。
テレビがない大学生まで契約
2020年には、消費者庁がNHK関連の消費生活相談の内容を国会で明らかにした。
2017年度は1万645件、2018年度は8145件、2019年度は3月16日時点で6444件。
その中には、一人暮らしの学生についての相談もあった。
勧誘員から「公共放送の受信契約は皆がしている」と言われ、テレビを持っていないのに契約してしまったという。
「夜間訪問や居座り行為などをしないよう申し入れてほしい」という相談も寄せられていた。
そして「深夜1時」
2020年、豊島区議会では「NHKの深夜訪問について」という質問が行われた。
翌年発行の区議会だよりには、「深夜1時頃に来たとき」というケースまで登場している。
年間1億3000万回、訪問経費300億円超
2021年、NHK自身が従来の営業方法を大きく見直す。
当時の前田晃伸会長は国会で、NHKが視聴者宅などを年間延べ1億3000万回訪問していたことを明らかにした。
訪問経費だけで年間300億円以上。
前田会長は費用対効果だけでなく、トラブルも含めて「このまま放置できない」と説明した。
従来の巡回型営業から、訪問によらない営業への転換を表明。コロナが収束しても「元の営業のスタイルに戻すことではなくて」と国会で答弁していた。
NHKはその後、戸別訪問への依存を縮小。2023年9月までに、新規受信契約を獲得するための外部法人による戸別訪問を全廃した。
2026年、戸別訪問を再開
NHKが外部法人による戸別訪問を再開した背景には、受信料収入の減少がある。
2023年の受信料値下げ以降、NHKでは赤字決算が続き、契約数も減少している。営業態勢を強化し、受信料収入を増やす狙いがあるという。
NHKは過去に突然の訪問やその際の対応が批判された経緯を踏まえ、今回は事前に書面で案内を送り、相手の理解を得ながら訪問するとしている。
現在報じられている範囲では、委託された2社の社名や、具体的に何時まで訪問するのかといった運用の詳細は明らかになっていない。
成果に応じた報酬も設定される。ただし、廃止前より金額は少ないという。
かつての求人では「月間50万円以上」の収入例が示され、「在宅時間をしっかり把握して訪問することがポイント」とされていた。契約件数が収入に直結すれば、一件でも多く契約を取ろうとする動機になる。
NHKは事前に書面を送ると説明している。一方で、委託先2社の名前も、何時まで訪問するのかも、現時点の報道では出ていない。成果報酬は、少額になったとはいえ残る。
廃止前に苦情を生んだのは、突然の訪問そのものだけではない。在宅時間を狙う設計と、成果報酬だった。
後者は残っている。前者の運用は、まだ見えない。


