食料品1%で飲食店が倒産?――深掘りすると見えてきた「本当のリスク」

食料品の消費税率を、現在の8%から1%へ引き下げる方針が示されています。

現在の軽減税率の対象となっている飲食料品について、2027年4月から2年間、消費税率を1%に引き下げる――。ここでは、現在示されている方針どおりの制度になったと仮定して考えてみます。

消費者にとっては、食料品の負担が大きく減る歓迎すべき話に見えます。

しかし、飲食店にとってはどうでしょうか。

まず思い浮かぶのは、

「食料品1%」対「店内飲食10%」

という問題です。

スーパーで食材を買って自炊すれば1%。

弁当や惣菜などの持ち帰りも、現在の軽減税率対象がそのまま1%になる制度なら1%。

一方、店内で食べる外食は10%のままです。

その差は9ポイントになります。

これだけを見ても、飲食店には一つの大きな不安があります。

「外食していた人が、自炊や弁当、惣菜へ流れるのではないか?」

という需要の問題です。

ところが、この制度についてもう少し深く考えてみると、別の問題も見えてきます。

食料品を1%にすると、

飲食店の消費税の納税額が大幅に増える可能性がある

というのです。

食材の税率が8%から1%になるなら、飲食店も仕入れ時の負担が軽くなるはずです。

それなのに、なぜ納税額が増え、倒産という話にまでつながるのでしょうか。

少し深く掘ってみます。

まず、消費税はどうやって納めているのか

ここを理解しないと、今回の話はなかなか見えてきません。

以下は、主に本則課税を選択している飲食店を前提にした説明です。

本則課税の場合、飲食店が国に納める消費税は、ものすごく単純化すると、

売上にかかる消費税
-
仕入れや経費で支払った、控除対象となる消費税
=
納める消費税

という仕組みです。

例えば、お客さんへの販売で10万円の消費税が発生したとします。

一方、食材の仕入れや店舗家賃、電気・ガス、広告費、消耗品、厨房機器など、事業のための課税仕入れ等で合計6万円の消費税を支払っていたとします。

すると単純化すれば、

10万円 − 6万円 = 4万円

この4万円を納めることになります。

仕入れや経費で支払った消費税を差し引く。

これが「仕入税額控除」です。

ただし、すべての経費が対象になるわけではありません。

例えば、従業員やアルバイトに支払う給与には消費税がかかりません。

そのため、人件費が増えて利益が減ったとしても、その人件費を消費税の仕入税額控除として差し引くことはできません。

ここは後で重要になってきます。

食材が8%から1%になると何が起きる?

では、食料品の税率が1%になった場合を考えてみます。

店内飲食は10%のまま。

しかし、食材仕入れにかかる消費税は8%から1%へ下がります。

すると、食材を仕入れるときに支払う消費税は大幅に減ります。

ここまでは、店にとって良い話です。

しかし、本則課税ではもう一つのことが起きます。

仕入れで支払った消費税が減るということは、後から仕入税額控除できる金額も減る

ということです。

つまり、

店内飲食の売上:10%のまま

食材仕入れ:8%から1%へ

となることで、後から国に納める消費税額は増える可能性があります。

本当に納税額は増えるのか?

分かりやすくするため、かなり単純化した店を考えます。

以下の計算では、すべての売上が店内飲食であり、食材の税抜価格や売上高など、税率以外の条件は変わらないものとします。

また、その他の課税仕入れ300万円には、人件費を含めないものとします。

年間の税抜売上が1,000万円。

すべて店内飲食とすると、売上にかかる消費税は100万円です。

そして、

食材仕入れ:400万円

その他の課税仕入れ:300万円

とします。

その他の課税仕入れは、説明を単純化するため10%として計算します。

現在なら、

食材400万円 × 8% = 32万円

その他300万円 × 10% = 30万円

合計62万円。

売上側の100万円から差し引くと、

100万円 − 62万円 = 38万円

納税額は約38万円です。

では、食材が1%になったらどうでしょう。

食材400万円 × 1% = 4万円

その他300万円 × 10% = 30万円

合計34万円。

すると、

100万円 − 34万円 = 66万円

となります。

納税額は、

38万円 → 66万円

約28万円増えました。

確かに、本則課税の場合、食材の税率が8%から1%になることで、計算上の納税額が大きく増える可能性があります。

その28万円は、本当に損失なのか?

ここで一つ疑問が出てきます。

でも、その28万円、本当に店が損したのでしょうか。

先ほど、食材400万円にかかる消費税は、

8%なら32万円。

1%なら4万円。

と計算しました。

つまり、食材の税抜本体価格が変わらず、税率引き下げ分が仕入価格に反映されるなら、店は仕入れの段階で28万円少なく支払うことになります。

そして後から納める消費税は28万円増える。

つまり、

仕入れ時の支払い:28万円減少

後からの納税:28万円増加

です。

この前提であれば、1%になったことで28万円の損失が新たに発生したわけではありません。

極端に単純化すれば、

これまで仕入れ時に支払っていた金額の一部が、納税時に必要になる

ということです。

ただし、これはあくまで一定の条件を置いた計算です。

実際には、消費税率が下がったからといって、仕入れ価格全体が同じ割合で下がるとは限りません。

原材料費、物流費、包装資材費、人件費、光熱費などが上がっていれば、税率が7ポイント下がっても、商品の税込価格自体はそれほど下がらない可能性があります。

「消費税率が下がること」と「仕入れ価格全体が下がること」は別の問題です。

また、売上が減少したり、仕入れ価格そのものが上昇したりすれば、実際の資金繰りはこの計算どおりにはなりません。

それなら、なぜ倒産するのか?

本来なら、

「これは後から納税するお金だから残しておこう」

と管理すればよいはずです。

キャッシュに余裕がある店なら、納税額が増えること自体は、必ずしも致命的な問題ではありません。

それでも倒産という話が出てくるのは、すでに価格転嫁できず、利益とキャッシュを削り続けている店があるからです。

本当の問題は「価格転嫁できているか」

ここ数年、飲食店を取り巻くコストは上がり続けています。

食材。

人件費。

電気・ガスなどの光熱費。

物流費。

包装資材費。

その他のさまざまな経費。

本来なら、コストが上がれば販売価格も上げる必要があります。

しかし飲食店では、それが簡単ではありません。

原材料が10%上がったから、明日からメニューも10%値上げ。

そんなことを繰り返せば、客が離れるかもしれません。

近くの店より高くなるかもしれません。

特にランチなどでは、100円の違いが客の選択に影響することもあります。

だから、

原価は上がる。

人件費も上がる。

でも売価には全部転嫁できない。

ということが起きます。

その差を負担するのは店です。

当然、利益が削られます。

飲食店の価格には、消費税も入り込んでいる

制度を説明するとき、消費税は「お客さんから預かった税金」と説明されることがあります。

仕組みを理解するには分かりやすい表現です。

しかし、実際の商売の値付けは、それほど単純ではありません。

飲食店が料理の価格を決めるとき、

「税抜900円だから消費税90円を足して990円」

という計算だけで価格を決めているわけではありません。

900円なら客が来る。

1,000円にしたら減るかもしれない。

周辺の店はいくらなのか。

食材原価はいくらなのか。

人件費はいくらなのか。

家賃はいくらなのか。

どの程度の利益が必要なのか。

そうしたものを全部考えた結果として、最終的な販売価格が決まります。

つまり実際の売価の中には、

食材費も、人件費も、家賃も、利益も、そして消費税も入り込んでいます。

だからコストが上がっても売価に転嫁できなければ、その分は店の利益が吸収することになります。

人件費が上がっても、仕入税額控除は増えない

最低賃金が上がり、従業員の給与を上げたとします。

店にとっては明らかなコスト増です。

当然、利益は減ります。

しかし給与には消費税がかからないため、

人件費が増えたから、その分だけ仕入税額控除も増える

ということにはなりません。

つまり、

食材が上がった。

給料も上がった。

利益は減った。

それでも消費税は、利益の減少に合わせて単純に減ってくれる税金ではありません。

消費税は、法人税や所得税のように利益そのものに対して計算される税金ではないからです。

これが、

「利益はこんなに残っていないのに、消費税はこんなに払うのか」

という感覚につながります。

そこに食料品1%の「罠」がある

ここで食料品1%の話に戻ります。

すでに価格転嫁できず、利益が薄くなっている店があるとします。

食料品が1%になり、税率引き下げ分が仕入価格に反映されれば、仕入れ時のキャッシュアウトは減ります。

その瞬間だけを見れば、手元にお金が残るように見えます。

しかし本則課税なら、その分だけ後から納める消費税は増えます。

本来なら、

「これは後から納税するお金だから残しておこう」

と管理すべき資金です。

ところが、価格転嫁できず、すでに日々の資金繰りが苦しい店ではどうでしょう。

家賃を払う。

給料を払う。

光熱費を払う。

値上がりした食材を仕入れる。

目の前の支払いのために、仕入れ時に浮いたお金まで使ってしまう可能性があります。

そして納税時期が来る。

そのとき初めて、

「納税額は増えているのに、そのための現金が残っていない」

という現実に直面します。

これが、食料品1%に潜む一つの罠です。

1%が店を弱くするのではない

ここは重要です。

食料品1%が、それまで健全だった飲食店を突然赤字にするという話ではありません。

仕入れ時に支払わなくなった消費税分を納税用としてきちんと残しておけば、後から納めることができます。

むしろ怖いのは、

すでに価格転嫁できず、利益とキャッシュを削り続けてきた店

です。

物価が上がる。

でも価格を据え置く。

人件費も上がる。

それでも価格を据え置く。

「お客さんのため」と利益を削って耐える。

そうして余力を失ったところへ、一見すると手元資金が増える食料品1%がやってくる。

その現金を運転資金に使ってしまえば、納税時に一気に不足が表面化します。

1%は罠になり得ます。

しかし、その罠を致命傷にするのは、それ以前から続いていた「価格転嫁できない経営」なのです。

なお、ここまでの納税額の説明は、本則課税を前提にしています。

簡易課税を選択している事業者では、実際の仕入れにかかった消費税額ではなく、業種ごとのみなし仕入率を使って計算するため、影響は異なります。

自店への影響を見る場合は、まず自分の店が本則課税なのか、簡易課税なのかを確認する必要があります。

価格転嫁の問題は、飲食店だけではない

私は、この話を飲食店だけの問題だとは思いません。

日本では値上げするとき、

「致し方なく」

「限界です」

「申し訳ありません」

という言葉がよく使われます。

まるで値上げすること自体が悪いことであるかのようです。

もちろん、消費者にとって値上げは歓迎できるものではありません。

しかし原材料費も人件費も上がっているのに、販売価格だけを据え置けば、どこかが削られます。

まず利益が削られる。

利益が残らなければ設備投資も難しくなる。

そして、人件費を上げる余裕もなくなります。

価格転嫁をしないという判断は、一つの店だけの問題ではありません。

多くの企業や店が同じことを続ければ、業界全体の賃金も上がりにくくなります。

そこで働いている人たちは、仕事を離れれば一人の消費者です。

賃金が上がらなければ、消費にも回せません。

安く売るために利益や賃金を抑え、その結果、客も安いものしか買えなくなる。

そんな循環を続けることになります。

経営状態の良い店にも残る問題

では、

価格転嫁ができている。

十分な利益がある。

キャッシュにも余裕がある。

仕入れ時に減った消費税分を納税用としてきちんと管理できる。

そんな店なら、食料品1%は問題にならないのでしょうか。

納税面だけで考えれば、資金管理さえできていれば、それほど大きな問題にはならないかもしれません。

しかし、もう一つの問題は残ります。

それが最初に挙げた、

「食料品1%」対「店内飲食10%」

です。

スーパーで買う食材は1%。

弁当や惣菜などの持ち帰りも、制度設計どおりなら1%。

しかし店内飲食は10%。

経営状態が良い店でも、

「これまで外食していた客が、自炊や弁当、惣菜へ流れるのではないか」

という需要減少のリスクから逃れることはできません。

むしろ、キャッシュに余裕がある店にとっては、納税額よりこちらの方が大きな不安になる可能性があります。

食料品1%が飲食店に突きつける二つのリスク

ここまで整理すると、食料品1%が飲食店にもたらすリスクは、大きく二つに分けて考えることができます。

一つは、

資金繰りのリスク。

特に、物価高を価格転嫁できず、すでに利益とキャッシュを削っている店にとって問題になります。

もう一つは、

客を奪われるリスク。

食料品1%と店内飲食10%の差によって、自炊やテイクアウトへ消費が移る可能性です。

こちらは、経営状態が良い店にも関係します。

つまり、

弱っている店には「納税」で効く。

健全な店にも「需要」で効く。

同じ食料品1%でも、店の状態によってリスクの現れ方が違うのです。

本当の問題は「税金」だけではない

「食料品1%が飲食店を倒産させる」

それだけでは、この問題を正確に表していないと思います。

本則課税では仕入税額控除が減り、後から納める消費税が増える。

これは今回の制度を考えるうえで重要なポイントです。

そして、これまでとは違うキャッシュフローが生まれる以上、確かに「罠」になり得ます。

しかし、その罠が致命傷になる店には、その前から問題が存在している可能性があります。

物価が上がっているのに、価格転嫁できていない。

その結果、利益が削られ、キャッシュがなくなっている。

食料品1%は、その弱点を納税という形で一気に表面化させる可能性があります。

だからこそ、経営者が考えなければならないのは「税金が高い」で終わることではありません。

コストが上がったのであれば、売価もきちんと見直す。

「申し訳ありません」と言いながら値上げするのではなく、

「コストが上がったので、この価格で提供します」

と普通に伝える。

適正な利益が残るから、税金を払える。

利益が残るから、設備に投資できる。

そして利益が残るから、人にもきちんと払える。

食料品1%は、飲食店に新しい問題を生む制度であると同時に、

価格転嫁できず、利益とキャッシュを削ってきた経営の弱点を、納税という形ではっきり可視化する制度にもなり得ます。

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