府中刑務所の「外国人受刑者への配慮」はやりすぎなのか 世界の刑務所と比べてみた

東京・府中刑務所で進む外国人受刑者への対応が注目を集めている。

府中刑務所には現在1,735人が収容され、そのうち外国人受刑者は467人。61の国と地域に及び、約4人に1人を占める。

外国人受刑者向けの居室では、一般的な「畳に敷布団」ではなく、フローリングにベッド。約200人分の個室が設けられ、原則個室として運用されている。

食事も違う。

宗教上の理由などから豚肉を食べない受刑者には「豚禁食」を用意。この日の夕食では、豚肉の代わりに高野豆腐を使った料理が約40人に提供された。

ベジタリアン食や、米をパンへ変更する対応もあり、食事に関するアンケートは28カ国語で用意されているという。

こうした光景を見ると、

「刑務所に入ってまで、外国人の文化や宗教にそこまで合わせる必要があるのか」

と感じる人もいるだろう。

では、府中刑務所の対応は本当に「やりすぎ」なのか。

世界の刑務所と比べてみると、意外な事実が見えてくる。

「4人に1人が外国人」は府中刑務所特有の事情もある

まず整理しておきたいのが、府中刑務所の外国人比率だ。

467人、約4人に1人という数字だけを見ると、日本中の刑務所が急速に外国人だらけになっているようにも見える。

しかし府中刑務所には、外国人受刑者に対応する「国際対策室」が設置されている。

全国の刑務所など74施設のうち、こうした専門部署があるのは府中を含めて5カ所。そのため、外国人受刑者が府中に集まっている側面がある。

つまり「府中の4人に1人」を、そのまま日本全国の刑務所の外国人比率として見ることはできない。

それでも61の国と地域から467人。

刑務所の現場が、これまで日本ではそれほど必要とされなかった多言語・多宗教・多文化への対応を迫られていることは確かだ。

実は、日本も「何でも対応」しているわけではない

ここは今回の報道でかなり重要な部分だ。

府中刑務所の映像だけを見ると、外国人受刑者の要望に刑務所側が次々と合わせているようにも見える。

しかし実際の現場は違う。

2025年度の20歳以上の受刑者1人当たりの食費予算は、1日3食で592.22円。

刑事施設で被収容者1人を収容するために直接必要となる費用全体でも、1日2,364円だ。

法務省は、宗教上の理由などから通常の食事を摂取できない場合には食事内容や支給量を配慮するとしているが、これは外国人だけを対象とした制度ではない。

しかも府中刑務所の担当者は、外国人受刑者のすべての食事要望には対応できないとしている。

基本的には日本の刑務所として日本食を提供し、外国人だけの希望を際限なく受け入れれば、日本人受刑者との公平性にも問題が出るという考えだ。

つまり現在の日本の対応は、

「日本の刑務所の食事を基本としながら、宗教上食べられないものなどには必要な対応をする」

というものに近い。

では海外はどうなのか。

アメリカは「豚肉を抜く」よりはるかに細かい

米国の連邦刑務所では、宗教食がかなり細かく制度化されている。

米連邦刑務所局が2026年5月に改定したFood Service Manualには、「認証コーシャ」と「認証ハラール」の制度が明記されている。

宗教食用の調理済み食品は、原則として宗教認証が確認できる個別包装で提供する。

単純に「豚肉だけ別の食材に替える」というレベルではない。

ラマダンなど宗教上の断食についても、食事時間を通常とは変更して対応する仕組みがある。

宗教食への対応だけで見れば、日本より米国の方がはるかに制度化されている。

カナダは、対応する代わりに確認もする

さらに細かいのがカナダだ。

カナダ矯正局のハラール食では、豚肉だけでなく、豚由来食品、ゼラチン、非ハラール肉、動物性脂肪、アルコールなどまで対象になる。

調理器具やまな板についても、禁止食品との交差汚染を防ぐことが求められている。

ラマダンには、日の出前と日没後に必要な食事を取れるよう時間や内容を調整する。

コーシャ食では、外部から認証済み食品を購入し、密封状態まで管理するケースもある。

ただし、ここがカナダの面白いところだ。

宗教食は単なる自己申告だけで無制限に提供される仕組みではない。

申請はチャプレンが処理し、宗教食を受けている受刑者が実際にはその食事規律を守っていないことが確認された場合には、見直し手続がある。必要に応じて宗教コミュニティーの関係者にも確認する。

さらに、提供される食事が栄養上十分で宗教的要件を満たしていれば、「この野菜が欲しい」「この果物が欲しい」といった個別の希望まで認められるわけではない。

必要な宗教上の対応は行う。ただし、何でも希望通りにするわけではない。

この考え方は、日本にとってかなり参考になる。

イギリスは「豚肉を調理させない」ところまで対応

イングランドとウェールズの刑務所も、イスラム教徒への対応は明確だ。

刑務所当局の宗教対応指針では、イスラム教徒にはハラール食を提供し、ハラール食品と非ハラール食品を厨房や配膳時にも分ける。

さらにイスラム教徒の受刑者に、豚肉や豚由来食品を調理・調理補助・配膳させないことまで定められている。

ラマダンにも食事時間を変更して対応する。

ここまで来ると、府中刑務所の「豚肉を高野豆腐に替える」という対応が、国際的に特別なものとは言いにくい。

むしろ欧米には、日本より細かく宗教対応を制度化している国がある。

ただしフランスは、そこで一線を引いた

興味深いのがフランスだ。

フランスでも当然、受刑者の信教の自由は認められている。

しかし、

「イスラム教徒の受刑者がいる以上、刑務所は常にハラール肉を用意しなければならない」

とはされていない。

実際にイスラム教徒の受刑者が、刑務所で定期的にハラール肉を提供するよう求めた裁判がある。

フランス国務院は2016年、刑務所側には受刑者の宗教上の食事規律を可能な限り尊重する責任がある一方、あらゆる状況で宗教に完全に適合した食事を保証する義務まではないという判断を示した。

その刑務所では、豚肉なしのメニュー、ベジタリアンメニュー、宗教行事の際の特別食があり、売店ではハラール食品も購入できた。

国務院は、施設運営や予算、調達上の制約も含めて判断している。

ここにはかなり明確な線引きがある。

「食べられないものを強制しない」ことと、「希望する宗教認証食をすべて公費で提供する」ことは同じではない。

日本が今後考える上でも重要な考え方だろう。

「外国人だけベッド」は本当に優遇なのか

もう一つ話題になっているのが、府中刑務所の居室だ。

一般的な日本人受刑者は「畳に敷布団」。

外国人受刑者用の棟は「フローリングにベッド」。

これだけを見ると、外国人だけ待遇が良いようにも映る。

しかし国際的な刑務所基準から見ると事情は違う。

国連のネルソン・マンデラ・ルールズでは、受刑者一人一人に独立した寝床と寝具を提供することが基本とされている。

欧州刑務所規則も、受刑者は原則として夜間は個室に収容するという考え方を採用している。

したがって「個室+ベッド」は、欧州的な基準から見れば外国人だけに与えられた特別な贅沢とは言いにくい。

さらに府中刑務所の場合、原則個室なのには別の理由もある。

文化の違いによる受刑者同士のトラブル防止に加え、過去に複数の外国人受刑者による逃走計画があったことも理由とされている。

つまり、快適にするためだけの個室ではない。

管理上の必要性も含んだ個室化なのである。

結局、日本は「やりすぎ」なのか

世界と比べてみると、少なくとも宗教食について、日本だけが外国人受刑者に特別に甘いとは言えない。

アメリカ、カナダ、イギリスでは、日本以上に細かな宗教食対応が制度化されている。

ラマダンに合わせて食事時間まで変更することも珍しくない。

個室やベッドも、欧州ではむしろ刑務所処遇の基本的な方向性に近い。

そして実は、日本も外国人受刑者の希望を何でも受け入れているわけではない。

府中刑務所の現場でも、日本食を基本とし、日本人受刑者との公平性や限られた予算を考えながら対応している。

参考になるのは、カナダとフランスだろう。

カナダは必要な宗教上の対応を制度化する一方、申請や運用を確認する仕組みを持つ。

フランスは宗教上食べられないものを避ける手段を確保しながらも、行政に無制限の対応義務までは負わせない。

必要な権利は保障する。しかし、宗教や文化を理由に、どこまでも公費で対応するわけではない。

この線引きは、日本でも必要になる。

外国人受刑者が増えるほど、「刑務所の国際化」まで必要になる

そして、この問題にはもう一つの側面がある。

日本はこれまで、欧米ほど大規模な宗教対応を刑務所で必要としてこなかった。

必要がなかったからである。

ところが外国人受刑者の国籍や宗教が多様になれば、刑務所側には新しい対応が必要になる。

言語。

食事。

礼拝。

断食。

宗教行事。

生活習慣。

通訳や職員教育も必要になる。

もちろん、刑務所に収容されたからといって基本的人権や信教の自由がなくなるわけではない。必要な対応はしなければならない。

しかし、その負担が存在しないことにもできない。

外国人を受け入れるということは、働く場所だけの話ではない。

地域社会、学校、病院、警察、裁判所、そして刑務所まで、社会のあらゆる場所で制度側が対応することになる。

外国人受刑者が増えるほど、刑務所まで多言語・多宗教化していく。

それをどこまで公費で支えるのか。

そして、そこまで社会全体の対応コストを増やしてでも、外国人の受け入れをどこまで広げるのか。

これは刑務所だけで解決できる問題ではない。

「国際化」のコストは、観光地や職場だけで発生するわけではない。とうとう刑務所の献立表にまで及んでいる。

府中刑務所の現場は、日本がこれから考えなければならない問題を、かなり分かりやすく映している。

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