高市政権になり、日本の外国人政策は厳しくなった。
不法滞在への取り締まり、在留制度の悪用、永住や帰化。政府から聞こえてくる言葉だけを追えば、日本は外国人の受け入れを抑える方向へ大きく舵を切ったようにも見える。
では、外国人労働者も減っていくのだろうか。
調べてみると、答えは違った。
日本は今後も、かなりの規模で外国人労働者を受け入れる。
特定技能1号と、2027年4月から始まる育成就労。
政府が2028年度末までに設定した両制度の受け入れ上限は、合わせて123万1,900人だ。
では、この「123万人」は何を根拠に決めたのか。
さらに気になった。
ヨーロッパでは、先に大量の移民や外国人労働者を受け入れた国々が、いま政策を修正し始めている。
日本政府は、その事例を見た上で123万人という数字を決めているのだろうか。
政府資料を追ってみた。
在留外国人はすでに400万人を超えた
まず現在地を確認したい。
2025年末の在留外国人数は412万5,395人。
前年末から35万6,418人、9.5%増え、初めて400万人を突破した。過去最多である。
外国人労働者も増えている。
厚生労働省によると、2025年10月末の外国人労働者は257万1,037人。
前年から26万8,450人、11.7%増え、こちらも過去最多となった。
つまり、外国人政策が厳しくなっている一方で、外国人労働者の数そのものは現在も増えている。
2028年度末までの上限は約123万人
2027年4月には、技能実習に代わる「育成就労制度」が始まる。
政府が2028年度末までに設定した受け入れ上限は、
特定技能1号 80万5,700人
育成就労 42万6,200人
合計123万1,900人だ。
ここは誤解しないようにしたい。
「これから外国人を123万人追加する」という意味ではない。
すでに在留している特定技能外国人なども含め、2028年度末時点で両制度により在留する人数について設定された上限である。
それでも、政府がかなりの規模の外国人労働力を使うことを前提に制度を設計していることは変わらない。
では、なぜ123万人なのか。
123万人には、ちゃんと計算根拠があった
調べてみると、数字が適当に決められているわけではなかった。
基本的な考え方はこうだ。
まず、2028年度末に各産業で何人働いている必要があるのかを推計する。
そこから、
生産性向上による省人化
国内人材の確保
によって埋められる人数を差し引く。
それでも不足する人数を、外国人労働者で補う。
出入国在留管理庁も、受け入れ上限について、
「生産性の向上及び国内人材確保のための取組を行ってもなお不足する人数」
を踏まえて設定すると説明している。
つまり考え方を単純化すると、
人手不足数 − 生産性向上 − 国内人材確保 = 外国人受け入れ見込数
となる。
労働需給の計算としては、筋が通っている。
どの産業で何人入れるのか
123万人は、産業別の不足人数を積み上げている。
特に大きいのは、
工業製品製造業 31万9,200人
建設 19万9,500人
飲食料品製造業 19万4,900人
介護 16万700人
農業 9万9,600人
となっている。
この5分野だけで約97万4,000人。全体のおよそ8割を占める。
たとえば介護では、特定技能12万6,900人、育成就労3万3,800人の計16万700人を受け入れ見込数としている。
政府は将来の人手不足を推計し、介護ロボットやICTなどによる生産性向上、処遇改善や女性・高齢者など国内人材の確保を見込んだ上で、それでも埋まらない部分を外国人で補う計算をしている。
建設、製造、介護、食品製造、農業。
日本人だけでは将来必要な人数を確保できないと政府が判断した産業に、外国人労働者を入れていく。
ここまでは理解できる。
問題は、その次だ。
123万人は「日本社会が受け入れられる人数」なのか
答えは、少なくとも公開されている算定方法を見る限り、違う。
123万人という数字は、
「日本社会が外国人をここまでなら受け入れられる」
と判断して出された数字ではない。
「産業界でこれだけ人が足りない」
という労働需要を起点に出された数字だ。
もちろん、日本人の雇用や処遇、生産性向上、国内人材確保については考慮されている。
しかし、外国人が増えれば影響は労働市場だけでは終わらない。
住宅。
学校。
日本語教育。
医療。
社会保障。
自治体の行政負担。
地域社会。
治安。
そして長期的には、人口構成や社会統合にも関わってくる。
123万人という数字は、そうした社会全体の受け入れ能力から逆算されたものではない。
「産業が必要とする人数」と「社会が受け入れられる人数」は、本来同じとは限らない。
今回調べていて、一番引っかかったのはここだった。
政府は社会的影響を知らないのか
では政府は、外国人が増えた場合の社会的影響を考えていないのだろうか。
実は、そうとも言えない。
2025年8月、法務大臣の勉強会がまとめた外国人受け入れの基本的な在り方に関する論点整理では、人口減少と在留外国人の増加が続けば、将来、日本の外国人比率が「10%台」になるとの指摘まで紹介している。
さらに検討すべき視点として、
経済成長
産業政策
労働政策
税・社会保障
地域の生活者
治安
出入国・在留管理
などを挙げている。
つまり政府は、
「外国人は単なる労働力ではない」
ことを認識している。
社会保障も、地域社会も、治安も検討対象に入っている。
だから「政府は何も考えていない」と書くのは正確ではない。
むしろ疑問は逆だ。
そこまで分かっているのなら、なぜ社会的影響が受け入れ人数を決める際の制約条件として先に入っていないのか。
労働需要は数字にした。社会的影響はこれから考える
時系列で見ると、少し不思議な構造になっている。
特定技能と育成就労については、すでに2028年度末までの123万1,900人という具体的な上限を決めた。
その一方で、高市首相は2026年7月、在留外国人数の増加について「量的マネジメント」も含めて検討すると表明した。
2026年度中に、外国人受け入れに関する基本方針をまとめるとしている。
つまり、
産業界で何人必要なのかは、すでに数字を出した。
しかし、
日本社会全体として何人まで受け入れるのかは、これから考える。
という順番になっている。
もちろん、123万人をそのまま日本社会全体の外国人上限と見ることはできない。
特定技能と育成就労以外にも、技術・人文知識・国際業務、留学、家族滞在、永住者など、多くの在留資格が存在する。
だからこそ、本来なら外国人労働政策だけでなく、日本全体としての人口・社会政策が必要になる。
ヨーロッパはすでに政策を修正し始めている
そこで気になるのがヨーロッパだ。
欧州と日本をそのまま比較することはできない。
欧州では難民・庇護、不法入国という問題が大きい一方、日本では主にアジアから合法的な就労者を制度的に受け入れている。
条件はかなり違う。
それでも、外国人労働力への依存という点では参考になる事例がある。
英国だ。
英国政府は2025年、「Restoring control over the immigration system」という移民白書を発表した。
その目的の一つとして明確に、
海外労働力への依存を減らす
ことを掲げた。
技能や給与の基準を引き上げ、海外からの介護職の新規採用ルートを終了。
海外から人を呼んで欠員を埋め続けるのではなく、自国民の技能形成や職業訓練へ政策を戻そうとしている。
これは日本にとって他人事ではない。
外国人労働者を入れることで企業の人手不足が解消される一方、それが長期化すれば、
賃金を上げる。
労働条件を改善する。
省人化する。
自国民を訓練する。
そうした改革を遅らせる可能性もある。
まさに英国が現在、修正しようとしている部分だ。
EUも国境管理と送還を強化した
不法入国や庇護制度についても、欧州は制度を変えている。
2026年6月、EUでは新しい「移民・庇護協定」が全面適用された。
不規則に入域した人の身元、安全保障、健康チェック、庇護手続きの迅速化、送還手続きの強化などが柱だ。
同じ6月には、不法滞在者をより迅速に送還するためのEU共通制度についても政治合意が成立した。
欧州が外国人を一切入れない方向へ進んでいるわけではない。
必要な合法移民や高度人材は受け入れる。
その一方で、不法入国や制度の濫用、海外労働力への過度な依存については、以前より明確に管理を強めている。
スウェーデンは過去の政策を「持続不能だった」と総括
さらに踏み込んでいるのがスウェーデンだ。
スウェーデン政府は、過去数十年の移民政策について「設計が悪く、持続不能だった」とする認識を示している。
社会的排除や統合の問題、犯罪や過激主義、給付依存などを政策課題として挙げ、移民政策を厳格化してきた。
2026年には、社会の中に「並行的な社会構造」が形成されることが、統合や社会的排除に悪影響を与えているとの政府調査も公表された。
日本が同じ道をたどると決めつけることはできない。
しかし、先に大量の移民を経験した国が、何を問題と認識し、どこを修正しているのかを見る意味は大きい。
日本政府は欧州を知らないわけではなかった
では、日本政府はこうした海外事例を知らないのだろうか。
これも違った。
法務省は2022年、フランス、ドイツ、英国、米国、カナダについて、外国人の受け入れ制度と受け入れ環境を比較する大規模な調査を行っている。
調査対象は在留資格だけではない。
教育。
社会保障。
治安。
世論。
不法滞在。
送還。
外国人受け入れによる社会的影響まで調べている。
2025年の法務大臣勉強会でも、「諸外国の外国人受入れ政策」に詳しい有識者から意見を聞いている。
つまり、日本政府は欧州でどんな問題が起きているのかを全く知らないわけではない。
研究もしている。
社会的影響も認識している。
だから今回調べて残った疑問は、
「政府は知らないのか」
ではなくなった。
分かっているのに、なぜ受け入れ人数の計算には入らないのか
政府が社会的影響を意図的に「見て見ぬふり」をしていると断定する材料はない。
実際、調査もしている。
将来の外国人比率も考え始めている。
治安や社会保障、地域社会への影響も論点に入れている。
しかし、少なくとも公開されている123万人の算定方法を見る限り、それらは受け入れ人数を決める直接的な計算には入っていない。
労働需要は具体的な人数まで計算した。
社会的な受け入れ能力については、これから「量的マネジメント」として検討する。
この非対称性は気になる。
外国人労働者を必要とする産業側の事情は、すぐ数字になる。
一方、学校、自治体、住宅、医療、治安、地域社会への影響は、その数字を決めた後に検討されている。
これは本当に順番として正しいのだろうか。
人手不足と社会の受け入れ能力は、同時に考えるべきではないか
少子高齢化が進む日本で、外国人労働者を一人も受け入れないという議論は現実的ではない。
介護、建設、製造、農業などで深刻な人手不足があるのも事実だ。
そして123万人という数字にも、きちんとした労働需給上の根拠がある。
だから問題は、
「123万人には根拠がない」
ことではない。
根拠として計算しているものが、労働需要に偏っていることだ。
外国人労働者を何人必要とするのか。
同時に、日本社会は何人まで受け入れられるのか。
そして10年、20年先にどのような社会を目指すのか。
本来、この三つはセットで考える必要があるのではないか。
日本には、すでに先行事例がある。
英国も、EUも、スウェーデンも、かつての制度をそのまま続けているわけではない。
うまくいった部分もあれば、修正を迫られた部分もある。
日本政府もそれを研究している。
ならば、同じところまで進んでから政策を修正する必要はない。
高市政権が2026年度中にまとめるという「量的マネジメント」。
そこで初めて、
「産業界が必要とする人数」ではなく、「日本社会としてどこまで受け入れるのか」
という数字や考え方が示されるのか。
外国人政策が本当に変わったのかを判断するうえで、そこが大きな分岐点になりそうだ。


