小泉進次郎防衛相が、自衛隊への外国人登用について明確に否定した。
9月4日の記者会見で、小泉防衛相は、
「自衛隊への外国人の登用は考えていません」
と発言した。
発端は、笹川平和財団が発表した提言だ。
提言では、自衛隊の深刻な人手不足を背景に、同盟国や同志国の国籍を持つ人材について、職種や機密情報へのアクセス範囲などを限定したうえで、外国人の登用を検討対象から外すべきではないとした。
しかし、防衛相はこの案を否定した。
では、現在の自衛隊は、本当に外国人登用案が出るほど人が足りていないのか。
結論から言えば、かなり足りていない。
自衛隊は約3万人不足している
2026年3月末時点で、自衛官の定員は24万7154人。
これに対して、実際の人員は21万7701人だった。
不足は2万9453人。
充足率は88.1%にとどまっている。
内訳は、
陸上自衛隊 12万9176人
海上自衛隊 4万1463人
航空自衛隊 4万2324人
統合幕僚監部など 4738人
合計21万7701人。
特に陸上自衛隊の充足率は86.5%と低い。
「自衛隊は約25万人いる」というイメージを持つ人もいるかもしれない。
しかし、それは定員の数字だ。
実際には約21万8000人しかおらず、約3万人分のポストが空いている。
しかも、人が足りないのは常備自衛官だけではない。
予備自衛官の定員は4万7900人だが、現員は3万2267人。
即応予備自衛官も、定員7981人に対して3805人しかいない。
有事に備える予備戦力まで、定員を大きく下回っている。
応募者はいる。それでも人が足りない
少し意外なのは、自衛隊が「誰も応募してこない」状態ではないことだ。
2025年度の一般曹候補生を見ると、陸上自衛隊は9342人が応募し、2365人が採用された。
単純計算では約4倍。
海上自衛隊も約3倍の応募がある。
幹部系ではさらに倍率が高い。
一般幹部候補生は約5.8倍。
航空学生は約12.7倍だった。
つまり、自衛隊を希望する若者が完全にいなくなったわけではない。
それでも必要な人数を確保できていない。
2025年度の一般曹候補生は、採用計画8646人に対して実際の採用は4946人。
達成率は57%にとどまった。
特に陸上自衛隊では、4996人の採用計画に対して2365人。
半分にも届いていない。
問題は単純な「人気不足」ではない。
適性や身体条件、採用辞退、早期離職、任期満了後の退職。
そこに少子化による若年人口の減少まで重なっている。
防衛大学校は8.8倍
将来の幹部を育てる防衛大学校を見ると、さらに興味深い。
2026年入校の第74期では、一般採用試験の受験者数は8310人。
合格者は940人。
倍率は約8.8倍だった。
過去数年を見ても、7倍から9倍前後の競争率が続いている。
防衛大学校は今でも十分に人気がある。
つまり、
「若者が自衛隊に興味を失ったから、人が足りない」
というほど単純な話ではない。
入口には人が集まっている。
それでも、自衛隊全体として必要な人数を維持できていない。
中学卒業から自衛隊を目指す道もある
自衛隊には、防衛大学校よりさらに若い段階から人材を育てる制度もある。
陸上自衛隊高等工科学校だ。
中学校卒業見込みを含む17歳未満を対象に、3年間の教育を行う。
修了後は陸士長に任用される。
年間の募集規模は、推薦と一般を合わせて約350人。
さらに2028年度からは、陸・海・空の共同化と男女共学化が予定されている。
自衛隊は、若年層からの人材確保ルートそのものを広げようとしている。
装備だけ増やしても国防はできない
自衛隊の人員不足が重いのは、日本が防衛力を縮小している時期ではないからだ。
むしろ逆だ。
中国の軍事力拡大。
北朝鮮の核・ミサイル開発。
ロシアによるウクライナ侵攻と極東での軍事活動。
台湾海峡をめぐる緊張。
日本政府は現在、安全保障環境について「戦後最も厳しく複雑」との認識を示し、防衛力の大幅な強化を進めている。
長射程ミサイル。
防空システム。
艦艇。
戦闘機。
無人機。
サイバー防衛。
装備への投資は増えていく。
もちろん、実際に日本周辺で有事がいつ起こるのかを予測することはできない。
しかし、日本政府自身が「侵攻が起きた場合」を想定して防衛力を整備していることは事実だ。
そして、どれだけ高性能な装備を購入しても、それを運用する人間がいなければ防衛力にはならない。
ミサイルも、艦艇も、戦闘機も、基地も、人が動かす。
日本の防衛費が増える一方で、自衛官は減っている。
ここに現在の国防が抱える大きな矛盾がある。
海外では外国人が軍に入っている
外国人を軍隊に採用すること自体は、世界では珍しい制度ではない。
アメリカ軍では、一定の条件を満たす永住権保持者が入隊できる。
イギリス軍も、コモンウェルス諸国の国民を採用してきた。
フランスには、世界各国から兵士を採用する外国人部隊がある。
そして今回、日本と比較するうえで特に興味深いのがオーストラリアだ。
オーストラリア軍も深刻な人員不足を抱えており、2024年から外国籍人材への採用枠を拡大した。
まずニュージーランド人を対象とし、その後、英国、米国、カナダなどの永住者にも対象を広げている。
つまり、
「自国民だけでは必要な兵力を確保できない」
という問題に対して、外国籍人材の活用を選んだ国がすでにある。
日本では自衛官になるために日本国籍が必要
現在、日本で自衛官になるには日本国籍が必要だ。
日本国籍を持たない人は、自衛官採用試験を受験できない。
今回の笹川平和財団の提言は、この原則を全面的に廃止しようというものではない。
同盟国や同志国の国籍者などに対象を限定し、秘密情報へのアクセスや担当業務も制限したうえで、外国人登用を検討してはどうかという内容だった。
しかし、小泉防衛相は、この選択肢を否定した。
代わりに示したのが、
現役自衛官の処遇改善
退職後の生活支援
自衛官でなくてもできる仕事の外部委託
AIや新技術による省人化
といった対策だ。
自衛官でなければできない仕事に、自衛官を集中させる。
民間に任せられる業務は外に出す。
無人機やAIによって、そもそも必要な人数を減らす。
この方向性には合理性がある。
日本の国防を誰が担うのか
今回のニュースだけを見ると、
「外国人を自衛隊に入れるべきか」
という賛否に目が向きやすい。
しかし、本当の問題はその手前にある。
自衛隊はすでに約3万人不足している。
予備自衛官も足りない。
一般曹候補生の採用は計画を大きく下回っている。
その一方で、防衛大学校には今でも8倍を超える受験者が集まっている。
つまり、
「自衛隊が不人気だから人が足りない」
だけでは説明できない。
人口が減っていく日本で、今後も24万人規模の自衛隊を維持できるのか。
維持するなら、待遇をどこまで改善するのか。
民間委託やAI、無人化でどこまで人員不足を補えるのか。
それでも足りなくなったとき、外国人登用という議論が再び出てくる可能性はある。
外国人を採らない判断と、3万人不足は別の話だ。
採らないなら、処遇改善・民間委託・AIや無人化で埋めるしかない。
否定しただけでは、国防は完成しない。


