「外国人でも、日本で生活保護を受けられるのか」
この疑問には、少し意外な答えがある。
生活保護法そのものは、日本国民を対象とした法律だ。
それでも現在、日本では永住者、定住者、日本人の配偶者、特別永住者など、一定の外国人にも生活保護に準じた支援が行われている。
しかも、その根拠は生活保護法ではない。
1954年、昭和29年に出された厚生省の通知による「行政措置」が、70年以上続いているのである。
では、外国人にも生活保護を受ける「権利」があるのか。
永住者だけが対象なのか。
日本人と結婚した外国人はどうなるのか。
自治体によって判断を変えられるのか。
そして、そもそも日本人の場合、生活保護はいくら受け取れ、家賃や医療費、車、持ち家、仕事はどう扱われるのか。
2026年6月時点で生活保護を受けている人は全国で196万9,502人、164万2,778世帯。
保護停止中を除く世帯の55.3%は高齢者世帯だ。
今回は、意外に知られていない生活保護の仕組みを、外国人への支給を含めて一から整理する。
そもそも生活保護とは何か
生活保護は、「無収入になった人に毎月決まった金額を渡す制度」ではない。
基本的な考え方は非常にシンプルだ。
最低生活費 − 世帯の収入 = 支給される生活保護費
国が世帯ごとに最低限必要な生活費を計算し、給与、年金、仕送りなどを加えても不足する場合、その差額を生活保護で補う。
そのため、年金を受給していても、その金額が最低生活費を下回れば生活保護の対象になる場合がある。
逆に無収入であっても、十分な預貯金や利用できる資産を持っていれば、まずそれを生活に充てることが原則となる。
生活保護は、日本社会における最後のセーフティーネットだ。
生活保護は「毎月の生活費」だけではない
生活保護には8種類の扶助がある。
主なものは、生活費を支える「生活扶助」、家賃を支える「住宅扶助」、医療費を支える「医療扶助」、介護サービスを支える「介護扶助」だ。このほか、教育扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助がある。
つまり、
「生活保護は月7万円程度しかもらえない」
というように生活扶助だけを見ても、制度全体は分からない。
家賃や医療まで含めて考える必要がある。
都心と地方では給付額が違う
生活扶助の金額は全国一律ではない。
年齢や世帯人数だけでなく、住んでいる地域によっても変わる。
東京23区など物価の高い地域では、単身者の生活扶助はおおむね7万円台。
さらに住宅扶助として、実際に支払う家賃について一定額まで支給される。
東京23区の単身世帯では住宅扶助の上限が5万円台となるため、条件によっては、
生活扶助約7万円台+住宅扶助約5万円台
で、生活費と家賃を合わせた基準が月13万円前後になるケースもある。
ただし、住宅扶助の上限額をそのまま自由に使えるわけではない。
家賃が4万円なら原則として4万円分であり、地域によって上限額も異なる。
地方では生活扶助、住宅扶助ともに低くなる。
なお、2026年10月からは物価高への対応として、生活扶助の特例加算が1人当たり月1,500円から2,500円へ引き上げられる。
病院代は原則自己負担なし
生活保護の支援で特に大きいのが医療扶助だ。
生活保護受給者が必要な医療を受ける場合、原則として本人の窓口負担はない。
医療扶助として医療機関へ給付される。
そのため、生活保護について単純に「毎月現金で何万円もらえるか」だけを比較しても、実際の公的支援の大きさは分からない。
高齢者などで介護が必要になれば、介護扶助の対象になる場合もある。
働いたら生活保護は終わり、ではない
「生活保護を受けたら働けない」
これも誤解だ。
生活保護を受けながら働くことはできる。
給与は収入として認定され、その分だけ保護費は調整される。
ただし、働いて得た給与が全額そのまま保護費から差し引かれるわけではなく、勤労控除なども設けられている。
収入が増え、自分たちの収入だけで最低生活費を上回れるようになれば、生活保護から外れる。
つまり制度上は、働いて自立することを前提として設計されている。
貯金、株、車、持ち家はどうなる?
生活保護には「利用できる資産はまず生活のために活用する」という原則がある。
株式、投資信託など、資産形成を目的とする有価証券は原則として保有できない。
一方で、
「持ち家があれば絶対に生活保護を受けられない」
というのは正確ではない。
現在住んでいる家については、その価値や状況によって保有を認められる場合がある。
車も原則として処分対象だが、一律禁止ではない。
公共交通機関が著しく不便な地域で通勤や通院に必要な場合、障害者の移動に必要な場合など、一定条件では自動車の保有が認められる。
つまり生活保護は、「すべての財産を完全にゼロにしなければ申請すらできない」という制度ではない。
書類がなくても生活保護は申請できる
申請についても誤解が多い。
厚生労働省は、必要な書類がすべて揃っていなくても申請できるとしている。
住所がなくても申請できる。
親族に相談してからでなければ申請できないわけでもない。
持ち家があっても、まず申請することはできる。
申請後に福祉事務所が収入、資産、生活状況、働く能力などを調査し、保護が必要かどうかを判断する。
では、外国人も生活保護を受けられるのか
ここからが今回の記事の重要な部分だ。
まず大前提として、
生活保護法そのものは日本国民を対象としている。
生活保護法第1条、第2条に書かれている「国民」は、日本国民を意味する。
つまり外国人には、原則として生活保護法そのものは適用されない。
では、なぜ現在も外国人が生活保護を受けているのか。
根拠は1954年の「当分の間」という通知
現在の外国人への生活保護に準じた措置の原点は、1954年5月8日に出された厚生省社会局長通知だ。
この通知では、
外国人は生活保護法の適用対象ではない
としたうえで、生活に困窮する一定の外国人について、
「当分の間」
日本国民に対する生活保護の取扱いに準じて必要な保護を行うこととした。
法律を改正して外国人を生活保護法の対象にしたわけではない。
1954年に始まった行政運用が、その後70年以上続いている。
そして、この外国人への保護について通知自身が、生活保護法上保障された権利ではなく、行政措置として行われるものだと整理している。
つまり同じような生活保護を受けていても、
日本人と外国人では法的な位置付けが違う。
日本国民の場合は、生活保護法に基づく権利。
一定の外国人の場合は、生活保護法そのものではなく、行政措置による支援。
という違いがある。
外国人なら誰でも受けられるわけではない
もちろん、
「外国人なら日本に来れば生活保護を受けられる」
という制度でもない。
現在、主に対象となるのは、
・永住者
・定住者
・日本人の配偶者等
・永住者の配偶者等
・特別永住者
・認定難民
など、日本に長期的・安定的に在留することが認められている一定の外国人だ。
一部の「特定活動」についても対象になる場合がある。
逆に、一般的な就労資格、留学、技能実習、特定技能などで日本に滞在している外国人が、すべて同じように対象になるわけではない。
したがって、
「外国人なら誰でも生活保護を受けられる」
も間違い。
一方で、
「永住者しか受けられない」
という説明も間違いだ。
日本人と結婚した外国人はどうなる?
ここは意外に知られていない。
日本人と結婚した外国人は、条件を満たせば「日本人の配偶者等」という在留資格を取得できる。
そして「日本人の配偶者等」は、外国人への生活保護行政措置の対象になり得る在留資格の一つだ。
つまり、永住者でなくても対象になる可能性がある。
たとえば、
日本人と外国人の夫婦が日本で生活しており、外国人配偶者が働いておらず、日本人側にも十分な収入や資産がない。
世帯全体として最低生活費を下回っている。
このような場合には、世帯単位で生活保護の対象になる可能性がある。
もちろん、
「日本人と結婚すれば生活保護がもらえる」
という意味ではない。
世帯全体の収入、資産、就労能力などが審査される。
ただし外国人への行政措置について、「日本に10年以上住んでいなければ対象外」といった一律の居住年数要件があるわけではない。
ここは、外国人への公的扶助を考える上で一つの論点になる。
婚姻の自由と、日本政府が外国人配偶者の生活をどこまで公費で保障するかは、本来別の問題だからだ。
最高裁は「外国人には生活保護法上の受給権はない」
外国人への生活保護をめぐっては、最高裁も判断を示している。
2014年7月18日の最高裁判決だ。
永住資格を持つ外国人女性が生活保護申請をめぐって争った事件で、最高裁は、
外国人には生活保護法に基づく受給権はない
という判断を示した。
外国人が長年、行政措置によって生活保護に準じた支援を受けてきたとしても、それによって生活保護法そのものの対象になるわけではない。
つまり、
長期間続いた行政運用が、そのまま法律上の権利に変わるわけではない。
ここは外国人への生活保護を理解するうえで非常に重要なポイントだ。
自治体が自由に決めているのか
さらに複雑なのが、市区町村との関係だ。
1954年の外国人生活保護通知について、政府は地方自治法上の「技術的助言」と説明している。
2011年の政府答弁では、
この通知は地方公共団体に法的義務を課すものではない
とも明言している。
これは日本人への生活保護とは大きく違う。
日本人への生活保護は法律上の制度なので、
「うちの自治体では生活保護を実施しません」
ということはできない。
一方、外国人への措置は法律そのものではなく行政通知が根拠になっている。
ただし、
「だから市長やケースワーカーが好き勝手に決められる」
という意味でもない。
国は全国の自治体に通知に沿った取扱いを求めており、実務上は在留資格、収入、資産、生活状況などについて共通の基準に沿って審査されている。
つまり、
法的な仕組みとしては自治体への強制力が日本人の場合と異なるが、実務は全国共通の行政運用によって行われている。
と考えるのが近い。
特別永住者、韓国・朝鮮籍の生活保護は?
特別永住者も、外国人への生活保護行政措置の対象となっている。
いわゆる在日韓国・朝鮮人の多くも、この特別永住者に含まれる。
生活保護統計を見ると、外国籍を世帯主とする被保護世帯の中では、韓国・朝鮮籍が現在も大きな割合を占めている。
ただし、ここには注意が必要だ。
厚生労働省の生活保護統計は、
「在留資格別の受給者数」ではなく、「世帯主の国籍別」
で集計している。
そのため、
特別永住者全体の何%が生活保護を受けているのか
という正確な全国受給率は、現在公表されている統計からは算出できない。
「韓国・朝鮮籍」と「特別永住者」は完全に同じ集団ではないため、両者の数字を単純に割って生活保護受給率とするのは正確ではない。
ここは数字を扱う際に注意したい。
外国人の生活保護は増え続けているのか
この点にもイメージと数字の違いがある。
厚生労働省によると、世帯主が外国籍の被保護世帯に属する人員は、
2015年度の7万2,995人から、2024年度には6万4,993人へ減少している。
その一方で、日本に住む外国人の総数はこの間、大きく増加している。
ただし、この6万4,993人をそのまま、
「外国人生活保護受給者6万4,993人」
と表現するのも正確ではない。
この統計は「外国籍の人」を一人ずつ数えた数字ではなく、
外国籍の世帯主がいる生活保護世帯の世帯員数
だからだ。
外国籍世帯主の配偶者や子どもが日本国籍なら、その日本人も人数に含まれる。
逆に、日本人が世帯主で外国人の配偶者がいる場合、その外国人はこの数字には現れない。
つまり、日本では現在、
純粋な外国籍生活保護受給者の総数を正確に切り出せる全国統計が存在していない。
この点は、外国人生活保護をめぐる議論では押さえておきたい。
外国人への生活保護も見直しの時期に入っている
現在、日本では外国人をめぐる制度全体が見直されている。
永住許可、帰化、在留管理などについて、これまでより厳格な審査を行う方向へ政策が動いている。
生活保護についても、政府は外国人による利用実態の把握を進め、行政措置の対象となる外国人の範囲について見直しを検討している。
1954年に始まった「当分の間」の運用を、このまま今後も続けるのか。
どの在留資格まで対象とするのか。
日本に来てからの居住年数や生活実績を条件として求めるのか。
今後議論される可能性がある。
ただし、ここでは、
結婚する自由
日本に在留する資格
永住する資格
日本国籍を取得すること
日本政府が生活を公費で保障すること
は、それぞれ別の制度として考える必要がある。
外国人と結婚できることと、その外国人の生活を日本政府がどこまで保障するかは同じ問題ではない。
生活保護は「働かない人にお金を渡す制度」ではない
生活保護をめぐる議論では、
「働かない人が得をする制度」
「外国人でも簡単にもらえる」
「車も家も全部持てない」
など、極端なイメージが先行しやすい。
しかし実際にはもっと複雑だ。
現在の生活保護世帯の半数以上は高齢者世帯。
働いていても収入が少なければ対象になる場合がある。
持ち家や車も条件によっては保有できる。
外国人も受給できるが、外国人なら誰でも対象になるわけではない。
そして最も重要なのは、
日本人と一定の外国人では、同じ生活保護に見えても法的な根拠が違う。
ということだ。
日本人への生活保護は法律上保障された制度。
外国人への生活保護に準じた支援は、1954年から続く行政措置だ。
最高裁も、この二つを明確に分けている。
生活保護は、日本で生活できなくなった人を最後に支える制度である。
だからこそ、
誰を、どこまで、どんな条件で公費によって支えるのか。
感情論だけではなく、制度の仕組みと実際の数字を見ながら考えていく必要がある。


