新NISAの普及によって、投資信託を始める人が大きく増えた。
その中でも圧倒的な知名度を持つようになったのが、「オルカン」ことeMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)だ。
世界中の株式へ幅広く分散でき、信託報酬も非常に低い。
「迷ったらオルカン」
「長期投資ならオルカン」
そんな言葉を目にすることも多い。
では、本当にオルカンは「最強の投資信託」なのだろうか。
リターンを積極的に狙うならFANG+がある。
AI時代の中心産業ともいえる半導体へ集中する投資信託もある。
プロが企業を選別するアクティブファンドもある。
そして株式とは違う資産を持つという意味では、ゴールドという選択肢もある。
当然、それぞれ特徴も違えば、手数料も違う。
そこで今回は、余剰資金300万円を投資するという設定で、それぞれの商品を比較してみたい。
見るのは、単純なリターンだけではない。
何に投資する商品なのか。
どれくらいのコストがかかるのか。
どれくらいの値動きを覚悟する必要があるのか。
そして、買ったあとに何をする必要があるのか。
投資信託は「買うまで」だけではなく、「買ったあと」まで考えると、その性格がかなり違って見えてくる。
まず基準となるオルカン
オルカンは、日本を含む先進国・新興国の株式へ幅広く投資するインデックスファンドだ。
大きな特徴の一つが「時価総額加重」である。
世界中の企業を均等に買っているわけではない。
企業の時価総額が大きくなれば組み入れ比率も大きくなり、反対に企業の存在感が小さくなれば比率も下がっていく。
つまり、現在の世界経済で巨大テクノロジー企業が大きな存在なら、オルカンの中でも自然と大きな割合を占める。
そして将来、新しい巨大企業が誕生すれば、その企業の存在感も自然と大きくなっていく。
投資家自身が、
「次に伸びる企業はどこだ」
と予想し続ける必要がない。
世界の企業の勢力図が変われば、投資先の比率もそれに合わせて変わっていく。
これがオルカンの非常に強いところだ。
さらに信託報酬は年0.05775%以内。
300万円を保有した場合、単純計算では年間約1,700円になる。
世界中の株式をまとめて保有できる商品としては、極めて低いコストだ。
FANG+――世界の勝者へ、さらに集中する
一方、より大きなリターンを狙いたい投資家から人気を集めているのがFANG+だ。
代表的な「iFreeNEXT FANG+インデックス」の信託報酬は年0.7755%。
300万円なら単純計算で年間約2万3,000円になる。
オルカンとの差は年間約2万1,500円。
率にするとかなり大きな差だ。
では、その追加コストで何を買っているのか。
一言でいえば、
「集中」である。
FANG+は世界を代表する巨大テクノロジー企業や成長企業へ強く集中する。
ただし、ここで勘違いしてはいけない。
オルカンを買ったからといって、巨大テックを捨てるわけではない。
巨大テクノロジー企業の多くは世界有数の時価総額を持つため、オルカンの主要構成銘柄にもなる。
つまり、
FANG+=巨大テックを買う。
オルカン=巨大テックを買わない。
ではない。
違いは、
巨大テックをどこまで多く持つか。
FANG+を選ぶということは、
「世界市場全体よりも、この巨大成長企業群がさらに伸びる」
という考えに、より強く資金を置くことになる。
当たれば強い。
その一方で、集中しているからこそ値動きも大きくなりやすい。
半導体――成長産業そのものへ投資する
さらに投資対象を絞った商品もある。
その代表例として、野村世界業種別投資シリーズの「世界半導体株投資」を見てみよう。
半導体は、AI、データセンター、自動車、スマートフォン、産業機器など、現代社会のさまざまな場所で使われている。
AI市場が急拡大する現在、その中心産業の一つでもある。
だからこそ、
「半導体産業そのものの成長を取りにいきたい」
という投資には分かりやすい魅力がある。
一方でコストは高い。
信託報酬は年1.65%。
300万円なら単純計算で年間約4万9,500円になる。
さらに販売会社によっては購入時手数料が最大3.3%、換金時には信託財産留保額0.3%がかかる。
オルカンと比べれば、かなり大きな差だ。
ただし、これも
「高いからダメ」
という話ではない。
半導体株が市場全体を大きく上回って成長すれば、そのコストを上回るリターンを得られる可能性がある。
その代わり、値動きも大きい。
半導体株は景気や設備投資、需給、技術競争などさまざまな影響を受ける。
実際、運用会社自身も過去の半導体株について、大きな価格変動を繰り返してきたことを示している。
大きなリターンを狙う代わりに、大きな変動も受け入れる。
非常に分かりやすいタイプの投資商品だ。
アクティブファンド――「プロの判断」にお金を払う
インデックスファンドとは違い、運用担当者が銘柄を選び、市場平均を上回ることを目指すのがアクティブファンドだ。
世界中から成長企業を探すもの。
特定の国へ投資するもの。
特定産業へ集中するもの。
割安株を探すもの。
その戦略はさまざまだ。
ここで投資家が追加の手数料を払っている対象は、
運用会社の調査力や銘柄選択能力
とも言える。
優秀な運用チームが市場平均を大きく上回れば、高い手数料を払ったとしても十分な意味がある。
ただし、
高い手数料=高いリターン
ではない。
S&P Dow Jones Indicesの「SPIVA Japan Year-End 2025」によれば、日本で販売されるグローバル株式のアクティブファンドは、2025年の1年間で87%がベンチマークを下回った。
さらに10年、15年では100%がベンチマークを下回っている。
もちろん、この数字だけですべてのアクティブファンドを否定することはできない。
市場平均を大きく上回るファンドも存在する。
しかし、
「プロに任せれば市場平均以上になる」
と単純に考えるべきではないことも分かる。
ゴールド――そもそも目的が違う
ゴールドは、FANG+や半導体とは少し意味が違う。
巨大テックや半導体へ投資する目的は、基本的には高い成長を取りにいくことだ。
一方、ゴールドを保有する理由には、
株式とは異なる資産を持つ
という意味がある。
株式市場が大きく下落したとき、すべての資産が同じ方向へ同じだけ動くとは限らない。
そこで株式だけではなく、ゴールドなど異なる性質を持つ資産を組み合わせる。
つまりゴールドの場合、
「オルカンより高いリターンを狙う」
というより、
資産全体の分散先を増やす
という使い方が考えられる。
同じ「オルカン以外の商品」でも、その目的はまったく違う。
手数料が高いから悪い、ではない
ここまで比較すると、投資信託の手数料に対する見方も少し変わってくる。
オルカンは圧倒的に低コストだ。
しかし、他の商品にはそれぞれ別の役割がある。
FANG+なら巨大成長企業への集中。
半導体ファンドなら特定産業への集中。
アクティブファンドならプロによる銘柄選択。
ゴールドなら株式以外の資産への分散。
だから見るべきなのは、
「オルカンより何%高いか」だけではない。
その追加料金を払うことで、
オルカンでは得られない何を手に入れようとしているのか。
ここまで考える必要がある。
ただし、値動きの大きな商品にはもう一つのコストがある
そして、ここが非常に重要だ。
投資商品のコストは、信託報酬だけではない。
自分で管理する時間と判断もコストである。
FANG+を買った。
半導体ファンドを買った。
特定国へ投資した。
テーマ型ファンドを買った。
買うところまでは簡単だ。
しかし、その後も同じ理由で持ち続けていいとは限らない。
その産業はまだ成長しているのか。
株価だけが先に上がりすぎていないか。
構成銘柄はどうなっているのか。
自分の資産全体の中で比率が大きくなりすぎていないか。
オルカンより値動きの大きな商品へ投資するなら、こうしたことを定期的に確認する必要がある。
300万円が450万円になったらどうするか
値動きの大きな商品を持っていると、ときどき驚くほど資産が増える。
300万円が350万円になる。
400万円になる。
そして450万円になる。
150万円の含み益だ。
そこで、
「これはめちゃくちゃ増えるな」
と思う。
もちろん、その後600万円になるかもしれない。
しかし、相場は一直線には進まない。
仮に450万円まで上昇したあと30%下落すれば、資産は315万円になる。
一時は150万円あった含み益が、わずか15万円まで縮小する。
ここで初めて、
「あのとき少し売っておけばよかった」
と思う人もいるだろう。
値動きの大きな商品では「利確」も考える
だから、FANG+や特定セクター、テーマ型など値動きの大きな商品では、利確も投資戦略の一つになる。
これは、
「天井を当てて全部売る」
という意味ではない。
天井など誰にも分からない。
たとえば300万円が450万円になったところで、一部だけ利益を確定する。
確定した利益をオルカンへ移してもいい。
現金として持ってもいい。
増えすぎた資産の比率を元に戻す「リバランス」として考える方法もある。
一部を利確したあと、さらに上昇すれば残した資産でその恩恵を受けられる。
逆に大きく下落しても、すでに確定した利益は残っている。
もちろん、早く売ればその後の上昇を取り逃す。
利確すれば必ず投資成績が良くなるわけでもない。
だからこそ、
「何%上昇したら一部を売る」
「資産全体の○%を超えたら元の比率へ戻す」
など、自分なりのルールを考える必要が出てくる。
オルカンの安さは信託報酬だけではない
こうして他の商品と比較すると、オルカンの特徴が改めて見えてくる。
世界中へ分散されている。
現在の巨大企業もしっかり保有している。
新しい巨大企業が生まれれば、その存在感も自然と大きくなる。
特定企業が衰退すれば、その比率は自然と小さくなっていく。
そして信託報酬が非常に低い。
さらに大きいのが、
投資家自身が頻繁に判断する必要がない
ということだ。
相場を監視する時間。
特定産業の将来を考える時間。
売るべきか悩む時間。
次の投資先を探す時間。
売買判断を間違えるリスク。
こうした目に見えないコストまで考えると、
オルカンの「安さ」は信託報酬だけではない。
何もしなくても世界の変化についていけること自体が、オルカンの大きな価値なのかもしれない。
結局、オルカンは最強なのか
では、オルカンは最強の投資信託なのだろうか。
答えは、
何を求めるかによる。
より大きなリターンを積極的に狙うのであれば、FANG+や半導体ファンドという選択肢がある。
株式とは異なる資産も持ちたいのであれば、ゴールドを組み合わせる意味もある。
自分で商品を選び、相場を監視し、必要に応じて利確やリバランスまでできる人なら、オルカン以外の商品を組み合わせることで投資の可能性はさらに広がる。
一方で、
低いコストで世界中へ分散したい。
次の勝者を自分で予想したくない。
頻繁に相場を確認したくない。
10年、20年という単位で淡々と資産形成を続けたい。
そう考える人にとって、オルカンは極めて有力な選択肢になる。
つまり、
最高のリターンを狙える商品だから「最強」なのではない。
手数料、分散、管理の手間、売買判断の少なさ。
そこまで含めた総合力に、オルカンの魅力がある。
しかし、自分でリスクを取り、自分で管理できる人にとっては、もっと攻めた商品が最適解になることもある。
最強の投資信託が一つあるのではない。
自分がどこまでリスクを取り、どこまで投資に手間をかけるのか。
その答えによって、「最強」は変わる。


