オーストラリア、留学生の家族帯同を原則禁止へ 移民国家が制度を締め始めた理由

オーストラリア政府が、留学生の家族帯同やワーキングホリデーの延長、観光ビザから別のビザへの切り替えなど、移民制度を大きく見直す。

トニー・バーク内相が9月17日に発表した改革では、留学生と卒業ビザ保持者による家族帯同を原則として認めない。ワーキングホリデーの2年目、3年目には抽選を導入し、観光ビザには原則として「No Further Stay」の条件を付ける。学生ビザを別のコースへ次々と乗り換えて滞在を続ける「visa hopping」への規制も強化する。

政策は今後12カ月かけて順次導入され、一部は法改正を必要とする。

背景にあるのは、コロナ禍後に急増した海外からの人口流入だ。

オーストラリア統計局によると、2026年3月末の人口は2792万1150人。1年間で39万2700人増加し、そのうち純海外移民は29万2100人だった。人口増加の約74%を海外移民が占める。

政府は今回の改革によって、純海外移民を2026-27年度24万5000人、2027-28年度22万5000人とする予算上の予測値に沿わせる方針を示している。

留学生の配偶者と子どもの帯同を原則停止

現在のオーストラリアでは、留学生が配偶者や子どもを家族として学生ビザに付帯させることができる。

今後は学生ビザと卒業ビザについて、新たな家族帯同を原則として認めない。

すでに家族とともにオーストラリアに滞在している人は対象外。太平洋諸国やASEAN諸国からの留学生、博士課程など一定のケースについては例外を残す。

留学生本人だけなら1人だが、配偶者や子どもが加われば、一つの留学が複数人の人口流入につながる。

バーク内相は、オーストラリア国民が海外にいる配偶者を呼ぶ場合には長い審査を待つケースがある一方、留学生は最初から配偶者を帯同できる現在の制度にも言及した。

「留学」をつないで滞在するビザホッピングも規制

学生ビザそのものにも手が入る。

学士課程を終えて修士課程へ進み、人手不足分野に就職し、雇用主のスポンサーを受けて永住権を目指す。バーク内相は、こうした流れについては移民制度が想定する正常なルートだと説明している。

規制対象になるのは、コースを終えた後に別のコースへ入り、その後も別の教育機関へ移るなどして学生ビザをつないでいくケースだ。

政府は今後、進学によるビザ継続は原則として資格レベルが上がる場合に認める。学士から修士へ進むことは可能だが、資格レベルを下げたり、教育機関を渡り歩いたりして滞在を続けるルートは制限する。

バーク内相は、一部の教育機関が出席要件などを緩くし、教育ではなく就労と滞在継続を目的とする学生を受け入れているケースも問題視している。

ワーホリ3年目は3万1000人から5000人へ

日本人にも身近なワーキングホリデーは、2年目と3年目の延長に抽選が導入される。

2年目の抽選に参加するには、これまでと同じく地方などで88日間の指定労働が必要になる。その条件を満たしたうえで、上限4万5000人の抽選を受ける。前年は約5万7000人が条件を満たしていた。

3年目はさらに大きく減る。

6カ月間の指定労働を終えた人を対象とする抽選枠は5000人。前年は約3万1000人が対象だった。英国については自由貿易協定との関係から扱いが異なる。

指定された地域で働けば自動的に延長できた制度から、働いて条件を満たしても滞在できるとは限らない制度へ変わる。

観光ビザから別のビザへ切り替えるルートも狭める

観光ビザには原則として「No Further Stay」の条件を付ける。

現在は観光目的で入国した後、オーストラリア国内から別のビザを申請し、審査中はブリッジングビザで滞在できるケースがある。

今後は保護申請などを除き、観光ビザから国内で別の在留資格へ移る経路を制限する。すでにオーストラリアにいる人には遡って適用しない。

学生、ワーホリ、観光と制度は異なるが、今回の改革では一時滞在から長期滞在へつながる複数の経路が同時に見直されている。

背景には住宅不足

バーク内相は、住宅不足について「移民が引き起こしたものではない」としながらも、住宅供給が追いつくためには移民政策も対応の一部になる必要があると説明している。

3月までの1年間に増えた人口39万2700人のうち、純海外移民は29万2100人。すべての州・準州で海外移民が人口増加の最大要因となった。

住宅を必要とする人口の増加速度を抑えたい政府には、もう一つ難しい問題がある。

住宅を建てる労働者も必要だからだ。

政府は今回の改革と同時に、建設、医療、教育、資源、農業、水産などの技能移民を優先的に処理する方針を打ち出した。

農業界はワーホリ削減に反発

ワーホリの削減には、早くも農業界から懸念が出ている。

National Farmers’ Federationによると、オーストラリアの農業では約7人に1人の仕事をバックパッカーが担う。収穫期にはその比重がさらに高くなるため、業界団体は今回の制度変更が小麦などの収穫に影響する可能性を指摘している。

移民流入を抑えるほど、外国人労働者に依存する産業では人手不足が強くなる。

政府が一律削減ではなく、必要職種の技能移民を優先する制度へ動いている理由の一つでもある。

留学生は年間550億豪ドルを稼ぐ「輸出産業」

留学生についても、単純に人数を減らせば済むわけではない。

豪州教育省によると、2025年の国際教育による輸出収入は549億9800万豪ドル。このうち授業料が244億豪ドル、留学生による商品・サービスへの支出が304億豪ドルだった。

教育はオーストラリアの主要な輸出産業になっている。

外国人留学生への奨学金制度も存在するが、豪州教育省は大多数の外国人留学生が授業料を全額負担していると説明している。通常の外国人学生については、豪政府が教育費を負担するのではなく、原則として教育にかかる全コストを回収できる授業料を大学側が設定する仕組みだ。

人口や住宅への負荷を抑えながら、年間約550億豪ドルを生む留学産業は維持する。

今回の家族帯同制限は、留学生本人の受け入れを止めるのではなく、留学に伴う人口流入を抑える方法の一つになっている。

日本では私費留学生の一部に月4万8000円

日本の制度はどうなっているのか。

日本では「留学」の在留資格で滞在する外国人が、扶養する配偶者や子を「家族滞在」の在留資格で呼び寄せることができる。

外国人留学生への公的な給付制度もある。

日本学生支援機構の「外国人留学生学習奨励費」では、学業や人物に優れ、経済的理由で修学が困難と認められた私費外国人留学生に、大学・大学院などで月4万8000円、日本語教育機関で月3万円を給付する。全留学生が対象ではなく、各教育機関を通じて採用された学生への制度だ。

2026年度の文部科学省予算では、外国人留学生奨学金制度全体に217億円を計上。そのうち国費外国人留学生制度が174億円、私費留学生向けの学習奨励費が32億円・約6600人分となっている。

オーストラリアにも政府奨学金はあるため、「豪州は外国人留学生に一切公費を使わない」というわけではない。

制度の大きな違いは、オーストラリアでは大多数の外国人留学生がフルコストの授業料を負担し、国際教育そのものが年間約550億豪ドルの輸出収入を生み出している点にある。

人数を減らしながら、必要な人材は入れる

今回の改革では、留学生の家族帯同、学生ビザの乗り換え、ワーホリの長期化、観光ビザからの切り替えが同時に見直される。

その一方、建設、医療、教育、農業などの技能人材は優先する。

オーストラリア政府が進めているのは、移民を一律に止める政策ではない。

年間約550億豪ドルを生む留学生は受け入れる。住宅を建てる技能者も入れる。農業や医療に必要な外国人労働者も確保する。

そのうえで、一時滞在から家族帯同やビザの乗り換えを通じて人口が膨らむ経路を狭め、純海外移民を予算上の想定へ近づける。

移民国家オーストラリアは、受け入れる人数だけでなく、どの経路で入国し、どの人が長く残るのかまで管理する制度へ舵を切っている。

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